アリスとウサギ


「あれ、お前、髪濡れてねえ?」

「え?」

 そう言って前髪に触れるウサギ。

「ほら、襟元も」

 ウサギが触れたのと同時に自分の肌にも触れてヒヤッとする。

「洗い物してたら、水撥ねちゃって、それで……」

「はは、何だよそれ」

 笑ったウサギに安心する。

 余計な心配をかけたくないというより、あの女たちにとやかく言われてしまったことを知られたくない。

 屈してしまいたくない。

 自分の力だけでどうにかしたい。

「腹減った。アリスのチョイスでなんか食わして」

「いいけど、食べたら帰って。ちゃんと眠って」

「やだね。アリスと帰る。自分の部屋に帰るなら、俺もアリスの部屋に帰る」

 そう言って濡れた髪を撫でた。

 ツーンと目が熱くなる。

「わかった。座って待ってて」

 アリスは顔を隠すため、調理場にオーダーを持って行った。