アリスとウサギ


 コロコロと氷が足元に散らばった。

 愛羅は驚いた顔でマヤを見る。

 マヤはグラスをポイッと床に投げ捨てた。

 プラスティック製のそれは割れずにカラカラと転がっていく。

「あんたの自由だなんてわかってんのよ!」

 その声に調理場のスタッフがこちらに走り寄ってきた。

「お客様……?」

 何があったのかと目を丸くしている。

 マヤはそのまま席を立ち、店を出て行った。

 愛羅もそれに続く。

 出入り口のチャイムが虚しく響くと同時に、アリスの顎から雫がポタリと足元に落ちた。

 かけられた氷水ではない。

「有栖川さん」

 スタッフの呼び声に我に返ったアリスは、

「すみませんでした。片付けます」

 と言って顔を濡らしたままテーブルと床の清掃を開始した。

 スタッフの彼も、黙ってそれを手伝った。