アリスとウサギ


 名前もろくに知らないくせに、ウサギを返せという。

 アリスはどうしても納得できなくなった。

「マヤちゃんも私も、別に完全に別れて欲しいわけじゃないのよ」

 どうやらもう一人の女はマヤというらしい。

 今朝電話で「クロスのマヤ」という名前が出たのを思い出した。

「ただ、家に居付かれたりすると、私たちが啓介と遊べなくなっちゃうでしょう?」

 愛羅の言い分は、つまり「あなたも共有する一員になれ」という意味だ。

 そんなの、冗談じゃない。

 あんまり信用してはいなかったが、ウサギの「女遊びはやめる」という言葉を信じてみたくなった。

「そんなの、私の自由です」

「え?」

「彼から合鍵を受け取ってます。できるだけ彼の部屋にいるよう、彼のほうから言われてるんです。だから……」

 パシャッ!

 顔に冷たい水がかけられた。

 愛羅から視線をずらすと、マヤが空いたお冷のグラスをこちらに向けている。