アリスとウサギ


「もらってから一度も使ってなかったんだよね。俺、基本外食だし」

「もらったの?」

「うん、このマンション買ったときに。祝い代わりで」

 彼は他にも鍋セットや調理器具セットなども出してきて、「もらい物だ」と言う。

 一体誰にもらったというのだろう。

 しかし答えを聞くのも何だか気が引ける。

 どうせ女だ。

 器具たちによって、キッチンは一気に生活感が溢れた。

「じゃあ俺、初ゼミのレポートやってるから。できたら呼んで」

 ウサギはそう言って、寝室へと消えていった。

 何なのよ、もう。

 しかし、やるしかない。

 ウサギは医者からちゃんと栄養を取るように言われているし、外食より家庭料理のほうがヘルシー。

 彼の栄養管理は、彼女である自分に託されたのだ。

 アリスはキッチンの前に仁王立ちをして、一度フンと息をつく。

 これじゃ彼女というより母親じゃないの。

 そう呟き、作業に取り掛かった。