教授に手渡されたのは、アリスがウサギの部屋でまとめたレポート。

 彼の頼みはこれを30部刷ってほしいというものだった。

 アリスはウサギとペアであることに戸惑ったが、だからと言って断るわけにはいかない。

「わかりました」

 と言って二人で印刷室へ向かった。

 夕方になり、すっかり静かになった構内に二人の足音が響く。

「アリス」

「なによ」

「この間の金曜、ちゃんとタクシー拾えた?」

 この期に及んでまだ気にかけてくるのか。

 嬉しさと悔しさが胸を締め付けた。

「歩いて帰った」

「はぁ?」

 声に張りがない。

 勝手に一人で帰ったから呆れられたのだろうか。

「何でタクシー使わなかったんだよ」

「お金がもったいないと思って」

「そんくらい俺が出すよ。一人で歩くのはさすがにあぶねーだろ」