「……ん……っ」
重い瞼(まぶた)を開けると、視界に飛び込んできたのは、トタン屋根の隙間から差し込む朝の光だった。
鼻をくすぐる、お線香と古い畳の匂い。
僕はひまわり食堂の二階にある、小さな和室の布団に寝かされていた。
「ハルさん……!? よかった、気がついたんやね……!」
枕元から、掠(かす)れた声がした。
ハッとして横を向くと、そこには一晩中僕の手を握り締めていたのであろう、サクラがいた。
お下げ髪は少し乱れ、その綺麗な瞳は真っ赤に腫れ上がっている。
「サクラ……。ごめん、僕、どうして……」
「お祭りの帰り道、急に倒れて……。ものすごい血ぃ吐いて、私、ハルさんが死んでしまうかと思って、本当に怖かったんよ……」
サクラの目から、大粒の涙がポロポロと溢れ落ちる。
僕の手を握る彼女の指先が、小刻みに震えていた。
サクラをこんなに泣かせてしまった。その事実が、僕の胸をナイフのように突き刺す。
「サクラ、泣かないで。大丈夫だから」
「大丈夫なわけないやん! あんなに血を出して……。すぐに近所のお医者様を呼んだんよ。でも、お医者様も『こんな病気は見たことがない、滋養のあるものを食べて休ませるしかない』って……。ハルさん、あなた本当は、何の病気なん?」
まっすぐな、縋(すが)るような瞳。
本当のことを言えるはずがなかった。
現代の医学でも治らない不治の病であること。僕の命が、あと1年もないこと。
それを伝えたら、この優しい女の子はきっと、自分のこと以上に傷つき、絶望してしまう。
僕はサクラの手を優しく握り返し、精一杯の笑顔を作った。
「本当に大丈夫だよ。ただの、昔からの持病なんだ。時々こうやって血が出ることがあるんだけど、少し休めばすぐに元気になるから。……心配かけて、本当にごめんね」
それが、僕がサクラに吐いた、初めての大きな嘘だった。
太陽に向かって真っ直ぐに咲くひまわりの前で、僕はサクラに酷い嘘を重ねている。
サクラは僕の言葉を疑うこともせず、「持病……なんやね。よかった、死んでしまう病気じゃなくて……」と、何度も涙を拭いながら、心の底から安心したように微笑んだ。
その笑顔が、今の僕には何よりも痛かった。
重い瞼(まぶた)を開けると、視界に飛び込んできたのは、トタン屋根の隙間から差し込む朝の光だった。
鼻をくすぐる、お線香と古い畳の匂い。
僕はひまわり食堂の二階にある、小さな和室の布団に寝かされていた。
「ハルさん……!? よかった、気がついたんやね……!」
枕元から、掠(かす)れた声がした。
ハッとして横を向くと、そこには一晩中僕の手を握り締めていたのであろう、サクラがいた。
お下げ髪は少し乱れ、その綺麗な瞳は真っ赤に腫れ上がっている。
「サクラ……。ごめん、僕、どうして……」
「お祭りの帰り道、急に倒れて……。ものすごい血ぃ吐いて、私、ハルさんが死んでしまうかと思って、本当に怖かったんよ……」
サクラの目から、大粒の涙がポロポロと溢れ落ちる。
僕の手を握る彼女の指先が、小刻みに震えていた。
サクラをこんなに泣かせてしまった。その事実が、僕の胸をナイフのように突き刺す。
「サクラ、泣かないで。大丈夫だから」
「大丈夫なわけないやん! あんなに血を出して……。すぐに近所のお医者様を呼んだんよ。でも、お医者様も『こんな病気は見たことがない、滋養のあるものを食べて休ませるしかない』って……。ハルさん、あなた本当は、何の病気なん?」
まっすぐな、縋(すが)るような瞳。
本当のことを言えるはずがなかった。
現代の医学でも治らない不治の病であること。僕の命が、あと1年もないこと。
それを伝えたら、この優しい女の子はきっと、自分のこと以上に傷つき、絶望してしまう。
僕はサクラの手を優しく握り返し、精一杯の笑顔を作った。
「本当に大丈夫だよ。ただの、昔からの持病なんだ。時々こうやって血が出ることがあるんだけど、少し休めばすぐに元気になるから。……心配かけて、本当にごめんね」
それが、僕がサクラに吐いた、初めての大きな嘘だった。
太陽に向かって真っ直ぐに咲くひまわりの前で、僕はサクラに酷い嘘を重ねている。
サクラは僕の言葉を疑うこともせず、「持病……なんやね。よかった、死んでしまう病気じゃなくて……」と、何度も涙を拭いながら、心の底から安心したように微笑んだ。
その笑顔が、今の僕には何よりも痛かった。
