君と生きたあの夏を、ひまわりだけが覚えている

◇

お祭りの帰り道。
僕たちは食堂の裏手にある、小さなひまわり畑の前に座り込んでいた。
サクラが「これ、お祭りの露店のおじちゃんが内緒でくれたん」と、数本の線香花火を差し出してきた。
マッチで火をつけると、パチパチと小さなオレンジ色の火花が闇の中に弾けた。

「ねえ、ハルさん」
「ん?」
「私ね、ハルさんが記憶を失くしてここに来たの、神様がくれたご縁やと思ってるんよ。……もし、ハルさんの記憶が戻っても、ずっとここにいてくれる?」

消え入りそうな線香花火の光に照らされたサクラの瞳は、真剣そのものだった。
未来のない僕に向けられた、あまりにも純粋な願い。

「……うん。ずっと、サクラのそばにいるよ」

胸を締め付けられるような罪悪感を覚えながらも、僕は嘘を吐いた。
あと数ヶ月でこの街に空襲が来ること。
そして、僕自身の命が、あと1年もないこと。
そのどちらも、この綺麗な瞳を曇らせたくなくて、どうしても言えなかった。

パサリ、と線香花火の火種が地面に落ちて、辺りが暗闇に包まれる。

その瞬間だった。

ゴホッ、と胸の奥から激しい塊が突き上げてきた。
慌てて口元を両手で押さえる。しかし、溢れ出る熱い液体を止めることはできなかった。

「ガハッ……げほっ、ごほっ!」
「ハルさん!? どうしたの、大丈夫!?」

サクラが驚いて駆け寄ってくる。
僕は必死で月明かりから手を隠そうとしたけれど、手の隙間からボタボタと地面に滴り落ちる黒い液体が、サクラの足元を汚していく。

「あ、これ……血……? ハルさん、血ぃ吐いてるやん!」
「大丈夫、だから……ちょっと、のどが……」

言い訳をしようとしたけれど、視界が急激にぐにゃりと歪んだ。
全身から一気に力が抜け、僕はサクラの小さな肩に倒れ込んでしまう。

「いやや、ハルさん! しっかりして! 誰か、誰か来て――!」

サクラの泣き叫ぶ声が、遠のいていく意識の中で木霊していた。
じりじりと、僕の身体の砂時計が落ちていく。
サクラに迫る戦争の足音よりも早く、僕の「病気」という余命のタイムリミットが、すぐそこまで迫ってきていることを、僕は嫌というほど思い知らされた。