君と生きたあの夏を、ひまわりだけが覚えている

「わあ……! ハルさん、見て、すっごく綺麗!」

サクラが嬉しそうに声を弾ませ、浴衣の袖を揺らしながら振り返る。
いつも割烹着姿の彼女が、今日は淡い藍色の浴衣を身にまとっていた。
少しはにかみながら髪をアップにまとめた姿があまりにも可憐で、僕はさっきから直視できずにいる。
この日は、近所の神社でささやかな秋祭りが行われていた。
戦況が悪化している中での開催ということもあり、出店も数軒しかなく、現代のきらびやかなお祭りに比べれば驚くほど静かだ。
それでも、手作りの灯籠が優しく照らす境内に、サクラの瞳は少年のように輝いていた。

「本当に、綺麗だね。……サクラの浴衣姿も、すごく似合ってる」
「えっ……あ、ありがとう。お母ちゃんが遺してくれた、大事な浴衣なんよ」

サクラは照れくさそうに俯き、小さな手で浴衣の裾をぎゅっと握りしめた。
その仕草があまりにも愛おしくて、僕は気づけば、彼女の手をそっと握りしめていた。
サクラは一瞬ビクッと身体を強張らせたけれど、拒むことなく、僕の手をきゅっと握り返してくれた。
その手の温もりだけで、胸が痛いほど満たされていく。
病室のベッドでただ死を待っていた僕が、今、こうして誰かの手を握り、誰かを愛している。
この時間がずっと続けばいいのに。
不自由で、物資がなくて、明日をも知れない時代なのに、僕の人生で今が一番幸せだった。