君と生きたあの夏を、ひまわりだけが覚えている

「ハルくん。落ち着いて聞いてね」

白い診察室。機械的な冷たいエアコンの音だけが響く部屋で、お医者さんは静かにそう言った。
差し出されたカルテに書かれた、聞いたこともない病名。

「君の命は、もってあと1年です」

……そんな現代の記憶が、濁流のように頭の中に流れ込んできた。

「はっ……!」

僕は激しく息を吸い込みながら、バチリと目を開けた。
視界に飛び込んできたのは、病院の白い天井……ではなく、突き抜けるような、どこまでも高い現代の青空だった。

聞こえるのは、風に揺れるひまわりのざわめきと、遠くを走る車の音だけ。
誰もいない、あの田舎町のひまわりの丘に、僕はたった一人で大の字になって倒れていた。
慌てて自分の身体を見回す。着ているのは、あの時と同じナイロン製のマウンテンパーカー。胸の奥の不快な痛みは残っているけれど、あの昭和十九年の戦火の熱さも、吐き出した血の味も、もうどこにもなかった。

「夢……だったのか……?」

でも、サクラのあの温かい手の温もりも、最後に僕の額に触れた感覚も、あまりにもリアルに残っている。あんなに悲しくて、あんなに美しい夢があるはずがない。

僕はふらふらと立ち上がり、満開のひまわり畑の中を歩き回った。
すると、ひまわり畑の隅の、一本の大きな古木の根元に、人だかりができているのが見えた。この丘を整備している観光協会の職員さんたちのようだ。

「おい、これ……土の中から古いトランクが出てきたぞ!」
「かなり昔のものみたいですね。戦時中のものかしら……」

トランク。その言葉に、僕の心臓がドクンと大きく跳ね上がった。
職員さんたちをかき分けるようにして、僕はそのトランクの前に崩れ落ちた。
ひどく錆びついた金属性のトランク。その表面には、かすれてはいるけれど、見覚えのある手書きの文字で、こう刻まれていた。