幸せのツボミ

夕方になって、僕たちはご飯を食べることにした。
向かい側に座った彼女は、メニューを眺めながら、
「何食べようかな」
なんて笑っていた。
注文を終えて、しばらく他愛のない話をしていると、
「そういえばね」
彼女が話し始めた。
「最近、彼氏がさ――」
今の彼氏の話だった。
僕は、
「へぇ」
「そうなんだ」
「よかったじゃん」
なんて相槌を打ちながら聞いていた。
彼女は本当に楽しそうだった。
最近あった出来事。
二人で出かけた話。
ちょっとした喧嘩。
そのあと仲直りした話。
嬉しかったこと。
そんな話を、一つ一つ楽しそうに話していた。
僕はそんな彼女を見ながら、ふと思った。
――幸せそうだな。
ただ、それだけだった。
嫉妬はなかった。
胸が締めつけられることもなかった。
「僕のほうが君を幸せにできたのに」なんて、思いもしなかった。
むしろ、
――よかったな。
そう思った。
そして、もう一つ思ったことがあった。
幸せな人って、こんな顔をするんだ。
好きな人の話をしているときの彼女の目は、いつもより少しだけ輝いていた。
その話をしている間だけ、他のものなんて見えていないみたいだった。
まるで、その人の話だけが世界の中心になっているような。
そんな顔だった。
僕はその目を見ながら、昔の彼女を思い出していた。
僕と付き合っていた頃の彼女。
そして、あの頃の自分。
気づけば、箸を持つ手が止まっていた。
「どうしたの?」
「いや、なんでもない」
僕は笑った。
そしてまた、彼女の話を聞いた。
幸せそうだった。
本当に。
だからこそ、僕は直感的に思った。
――この人の幸せのツボミは、きっと綺麗な花になる。
そんな気がした。