幸せのツボミ

久しぶりに、元カノに会った。
最後に顔を合わせたのがいつだったのか、正確には覚えていない。
別れてからしばらくは、彼女の名前を見ただけで胸の奥がざわついた時期もあった。
でも、それもいつの間にかなくなっていた。
今では、彼女のことを思い出しても苦しくなることはほとんどない。
もし今、誰かに、
「もう一度、彼女と付き合いたい?」
そう聞かれたとしても、僕は少しだけ考えて、
「いいえ」
と答えられると思う。
もちろん、楽しかった思い出はたくさんある。
大切だった時間もある。
彼女に感謝していることだって、数え切れないくらいある。
だけど、それと「もう一度一緒になりたい」という気持ちは、もう別のものになっていた。
だから今日も、特別な意味なんてないと思っていた。
ただ久しぶりに会って、少し遊ぶ。
それだけのつもりだった。
「久しぶり」
「久しぶり」
待ち合わせ場所で顔を合わせた彼女は、昔と少し変わっていた。
髪型も。
服装も。
雰囲気も。
でも、笑ったときに目を少し細める癖だけは、昔と変わっていなかった。
「あそこ行ってみない?」
「いいよ」
僕たちは歩き始めた。
昔みたいにくだらない話をした。
どうでもいいことで笑った。
昔行ったことのある場所を通れば、
「ここ懐かしいね」
「そういえば、前にも来たよね」
なんて話した。
不思議だった。
昔は恋人だった。
でも今は、ただの昔を知っている友達みたいだった。
それなのに、気まずさはなかった。
無理に昔の関係に戻ろうとすることもない。
昔を引きずっているわけでもない。
ただ、昔を知っている二人として、一日を過ごしていた。
それが、なんだか心地よかった。
僕は思った。
――ちゃんと、終わったんだな。
寂しいわけではない。
悲しいわけでもない。
ただ、そう思った。
あの頃は確かに大切だった。
でも、今はもう違う。
僕たちはそれぞれ、自分の時間を歩いている。
それでいい。
そう思っていた。
この日までは。