怪談話ばかり読み漁っていた僕は、なんとか期末テストを乗り切り、夏休みに入った。
「なかなかいい話に出会えないなぁ……」
雫がそんなことをぼやく日が続き、気づけば夏休みも五日目。
坂を上ると、視界がぱっと開けた。
「おーい!」
ベンチに座っていた雫が、僕を見つけて大きく手を振る。
僕が近づくと、待ってましたと言わんばかりに口を開いた。
「ねぇねぇ、いいネタを仕入れてきたよ!」
「寿司屋か⁉」 と、ツッコミたい気持ちをぐっと堪え、「何?」と聞く。
「あのね、兵隊さん」
「兵隊? なんだか怖そうだね」
「そうなんだよ。その人ね、新入社員研修で三か月間ホテルに泊まってたんだって。それで、そのホテルで怖い体験をしたみたい」
兵隊にホテル……。
夏のホラー特集で見かけそうな組み合わせだ。
それにしても、こんな身近な場所にもそんな体験をした人がいるなんて。
僕は改めて、雫の取材力に感心した。
雫が聞いてきた話を語り出した。
「最初はね、『夜になると金縛りに合うなー。疲れてるからかな』くらいに思ってたんだって。でもね、金縛りに合うたびに、カチャ……カチャ……って音が聞こえてきたらしいの。それが日に日に大きくなって、まるで近づいてくるみたいに。
そしてある日、とうとうその音が、その人のすぐそばまで来たんだって。
そこで……ピタッと止まった」
「……」
「でね、恐る恐る目を開けると……」
キャーッ。
雫はそう言って、自分で耳を塞いだ。
怖がっている……というより、完全に楽しんでいる。
「ねー、もう。なんで怖がらないのー」
つまんなーい、と言わんばかりに、雫は僕に向かって口を尖らせる。
「いや……ありきたりな流れだなと思って」
「ありきたりって……。いや、その場にいたらかなりの恐怖よ」
雫はちらりと僕を見ると、ゴホンとひとつ咳払いをした。
「はいはい。察しの通り、そこにはね、その人を覗き込んでいる兵隊さんがいたらしいですよ。はい」
僕が怖がらなかったのが少し面白くなかったらしい。
雫は少しぶっきらぼうに話を続ける。
「それでね、ホテルの人に言って部屋を変えてもらったんだって」
僕は、いかにも「興味があります」という顔を作って続きを待った。
「でもね、部屋を変えても毎晩、その人の枕元に立ってたらしいの。そして、そのうち話しかけてくるようになったんだって。
『お国のために、この命を捧げよう』
って。毎晩、毎晩……」
僕は思わず眉をひそめる。
「その人は同期の人に事情を話して、部屋に泊めてもらうことにしたんだけど……」
雫はそこで一度間を置いた。
「やっぱり来たんだって」
「それは怖いね。で、その人はどうしたの?」
「研修も二か月くらい経った頃。ある時から気持ちが軽くなったって。きっと慣れちゃったんじゃないかなって言ってたよ。
『なんだったんだろうなぁ』って」
「なるほどねぇ……」
よくある怪談話だとは思う。
でも、せっかく雫が取材してきてくれた話だ。
僕はその話をもとに、考えを巡らせた。
「なかなかいい話に出会えないなぁ……」
雫がそんなことをぼやく日が続き、気づけば夏休みも五日目。
坂を上ると、視界がぱっと開けた。
「おーい!」
ベンチに座っていた雫が、僕を見つけて大きく手を振る。
僕が近づくと、待ってましたと言わんばかりに口を開いた。
「ねぇねぇ、いいネタを仕入れてきたよ!」
「寿司屋か⁉」 と、ツッコミたい気持ちをぐっと堪え、「何?」と聞く。
「あのね、兵隊さん」
「兵隊? なんだか怖そうだね」
「そうなんだよ。その人ね、新入社員研修で三か月間ホテルに泊まってたんだって。それで、そのホテルで怖い体験をしたみたい」
兵隊にホテル……。
夏のホラー特集で見かけそうな組み合わせだ。
それにしても、こんな身近な場所にもそんな体験をした人がいるなんて。
僕は改めて、雫の取材力に感心した。
雫が聞いてきた話を語り出した。
「最初はね、『夜になると金縛りに合うなー。疲れてるからかな』くらいに思ってたんだって。でもね、金縛りに合うたびに、カチャ……カチャ……って音が聞こえてきたらしいの。それが日に日に大きくなって、まるで近づいてくるみたいに。
そしてある日、とうとうその音が、その人のすぐそばまで来たんだって。
そこで……ピタッと止まった」
「……」
「でね、恐る恐る目を開けると……」
キャーッ。
雫はそう言って、自分で耳を塞いだ。
怖がっている……というより、完全に楽しんでいる。
「ねー、もう。なんで怖がらないのー」
つまんなーい、と言わんばかりに、雫は僕に向かって口を尖らせる。
「いや……ありきたりな流れだなと思って」
「ありきたりって……。いや、その場にいたらかなりの恐怖よ」
雫はちらりと僕を見ると、ゴホンとひとつ咳払いをした。
「はいはい。察しの通り、そこにはね、その人を覗き込んでいる兵隊さんがいたらしいですよ。はい」
僕が怖がらなかったのが少し面白くなかったらしい。
雫は少しぶっきらぼうに話を続ける。
「それでね、ホテルの人に言って部屋を変えてもらったんだって」
僕は、いかにも「興味があります」という顔を作って続きを待った。
「でもね、部屋を変えても毎晩、その人の枕元に立ってたらしいの。そして、そのうち話しかけてくるようになったんだって。
『お国のために、この命を捧げよう』
って。毎晩、毎晩……」
僕は思わず眉をひそめる。
「その人は同期の人に事情を話して、部屋に泊めてもらうことにしたんだけど……」
雫はそこで一度間を置いた。
「やっぱり来たんだって」
「それは怖いね。で、その人はどうしたの?」
「研修も二か月くらい経った頃。ある時から気持ちが軽くなったって。きっと慣れちゃったんじゃないかなって言ってたよ。
『なんだったんだろうなぁ』って」
「なるほどねぇ……」
よくある怪談話だとは思う。
でも、せっかく雫が取材してきてくれた話だ。
僕はその話をもとに、考えを巡らせた。



