それから、時間が流れた。
最初の頃は。
毎日のように彼のことを考えていた。
SNSを開けば彼のページを見て。
DMを開けば過去の会話を読み返して。
何か面白いことがあれば、
「話したらどういう反応するかな」
なんて考えていた。
けれど。
いつの間にか。
そういうことが少なくなっていた。
⸻
大学の課題。
実験。
趣味。
韓国語。
友達との予定。
新しく知り合った人。
行きたい場所。
やりたいこと。
毎日は思っていたより忙しくて。
そして、思っていたより楽しかった。
気づけば。
彼のことを考えない日が、一日。
二日。
一週間。
少しずつ増えていった。
⸻
ある夜。
ふと、SNSを開いた。
何となく。
本当に何となく。
ストーリーを眺める。
友達の旅行。
誰かのご飯。
大学の写真。
いつものように指を動かしていく。
そして。
指が止まった。
見覚えのあるアイコン。
一瞬。
誰だか分からなかった。
しばらく見つめて。
「あ……」
声が漏れた。
⸻
久しぶりだった。
あまりにも久しぶりで。
一瞬、本当に彼なのか分からなかった。
ストーリーを開く。
そこには。
以前より少し雰囲気が変わった彼がいた。
相変わらず、真面目そうな内容。
でも。
その写真の端に。
少しだけ、あの頃と変わらない無邪気さが見えた。
「……元気だったんだ」
ぽつり。
それだけ呟いた。
⸻
以前なら。
きっと。
すぐにDMを開いていた。
「久しぶり!」
なんて送っていたかもしれない。
でも。
今は違った。
スマートフォンを持ったまま。
しばらく迷った。
送ろうかな。
どうしようかな。
別に。
もう以前ほど気になっているわけではない。
……たぶん。
そう思って。
ストーリーを閉じた。
⸻
その日の夜。
結局。
何も送らなかった。
「まあ、元気そうでよかった」
それだけ。
そう思って、スマートフォンを置いた。
ところが。
翌日。
また彼のストーリーが上がった。
そして。
その次の日も。
少しずつ。
彼がSNSに戻ってきたことが分かる。
どうやら。
長い間、何かに集中していたらしい。
以前話していた司法試験のこと。
⸻
「そっか……」
あの頃。
彼とのDMが減っていった理由。
今なら、少し分かる気がした。
私はもう。
それを寂しいとは思わなかった。
いや。
正確には。
少しだけ寂しかった。
でも。
それ以上に。
「頑張ってたんだな」
と思った。
⸻
そして。
数日後。
彼のストーリーに。
一枚の写真が上がった。
日本の風景だった。
私は思わず二度見した。
「……え?」
もう一度見る。
間違いない。
日本。
しかも。
見覚えのある場所だった。
⸻
少し迷って。
私は久しぶりにDMを開いた。
指が止まる。
最後に自分から送ったのは、いつだっただろう。
少しだけ緊張する。
でも。
昔ほどではない。
私は短いメッセージを送った。
⸻
返信は。
思っていたより早かった。
それだけなのに。
胸が少しだけ跳ねた。
……懐かしい。
この感じ。
以前は毎日のようにあった。
彼から返事が来ること。
それを見て笑うこと。
スマートフォンを握っていること。
でも。
今の私は。
あの頃とは違う。
⸻
少し話を続ける。
どうして日本に来たのか。
どこへ行くのか。
何日いるのか。
どうやら、試験を終えたご褒美に日本へ来ているらしい。
私は画面を見つめた。
司法試験の勉強。
あれだけ頑張っていたものが。
一つの区切りを迎えたらしい。
「お疲れさま」
そう送る。
そのあと。
少し間があって。
「そういえば、家が近くなんだよね?」
私は画面を見つめた。
⸻
近く。
確かに。
以前なら。
韓国と日本という距離があった。
会うには飛行機に乗らなければならない。
簡単には会えない。
でも。
今は。
同じ国にいる。
それだけで。
昔とは違う。
⸻
彼から。
「もし、時間あったら...」
その文字を。
私はしばらく見つめていた。
⸻
不思議だった。
あれだけ会いたかった人なのに。
あれだけ好きだった人なのに。
今は。
すぐに「会いたい」と返せなかった。
もちろん。
会いたくないわけじゃない。
ただ。
昔みたいに。
「会いたい、会いたい」
と心の中で騒ぐ感じではなかった。
私は少し考えてから、返した。
⸻
返信が来る。
「じゃあ、○日どうですか?」
私は予定を確認する。
空いている。
少しだけ笑った。
そしてまた送信。
⸻
画面を閉じる。
私は椅子にもたれた。
そして。
小さく息を吐いた。
「……また会うんだ」
不思議な感じがした。
一度。
好きになった。
一度。
振られた。
一度。
忘れようとした。
そして。
本当に少しずつ、忘れていた。
それなのに。
まるで。
何もなかったみたいに。
また。
会うことになった。
⸻
その夜。
ベッドに入ってから。
私はふと、昔のことを思い出した。
カフェで見た笑顔。
目尻がくしゃっと下がって。
口元が大きく開く。
あの無邪気な笑顔。
自転車から守ってくれたときの腕。
日本語を聞かれたこと。
韓国語を訂正されたこと。
そして。
「他の男、紹介しようか?」
と言われたこと。
あのときの痛み。
全部。
もう過去のことだった。
⸻
「……今、会ったらどうなるんだろ」
小さく呟く。
以前なら。
答えは分かっていた。
きっと。
また好きになる。
そう思っていた。
でも。
今は。
分からない。
私は一度。
この人を忘れかけた。
自分の生活を取り戻した。
彼がいなくても。
ちゃんと笑えるようになった。
だから。
今度会ったとき。
昔と同じ気持ちになるとは限らない。
⸻
そう思った。
それでも。
約束の日が近づくにつれて。
少しだけ楽しみになっていった。
何を着ていこう。
どこで会おう。
何を話そう。
そんなことを考える。
そして。
ふと気づく。
私は。
また服を選んでいる。
⸻
「……あれ?」
思わず笑った。
昔と同じだ。
でも。
少し違う。
昔は。
彼にどう見られるかが気になった。
今は。
久しぶりに会う友達に、少しでも綺麗に見えたらいい。
そんなくらい。
……本当に、それだけ。
そう自分に言い聞かせながら。
私はクローゼットの前に立った。
⸻
再会の日。
駅へ向かう道を歩く。
胸が少しだけ騒がしい。
でも。
昔ほどではない。
そして。
待ち合わせ場所が見えてきた。
人混みの向こう。
見覚えのある姿があった。
一瞬。
足が止まる。
⸻
彼がこちらに気づいた。
そして。
あの頃と同じように。
ふっと笑った。
目尻が、くしゃっと下がる。
口元が、大きく開く。
あの笑顔。
ずっと忘れていたはずなのに。
一瞬で思い出した。
⸻
胸の奥が。
小さく跳ねた。
私は思わず笑った。
「……久しぶり」
彼も笑う。
「久しぶりです」
その声を聞いた瞬間。
私はようやく気づいた。
忘れたと思っていたものは。
本当に消えてしまったわけではなかったのかもしれない。
ただ。
少しだけ。
眠っていただけだったのかもしれない。
そして。
その答えを知ることになるのは。
この日の帰り道だった。
最初の頃は。
毎日のように彼のことを考えていた。
SNSを開けば彼のページを見て。
DMを開けば過去の会話を読み返して。
何か面白いことがあれば、
「話したらどういう反応するかな」
なんて考えていた。
けれど。
いつの間にか。
そういうことが少なくなっていた。
⸻
大学の課題。
実験。
趣味。
韓国語。
友達との予定。
新しく知り合った人。
行きたい場所。
やりたいこと。
毎日は思っていたより忙しくて。
そして、思っていたより楽しかった。
気づけば。
彼のことを考えない日が、一日。
二日。
一週間。
少しずつ増えていった。
⸻
ある夜。
ふと、SNSを開いた。
何となく。
本当に何となく。
ストーリーを眺める。
友達の旅行。
誰かのご飯。
大学の写真。
いつものように指を動かしていく。
そして。
指が止まった。
見覚えのあるアイコン。
一瞬。
誰だか分からなかった。
しばらく見つめて。
「あ……」
声が漏れた。
⸻
久しぶりだった。
あまりにも久しぶりで。
一瞬、本当に彼なのか分からなかった。
ストーリーを開く。
そこには。
以前より少し雰囲気が変わった彼がいた。
相変わらず、真面目そうな内容。
でも。
その写真の端に。
少しだけ、あの頃と変わらない無邪気さが見えた。
「……元気だったんだ」
ぽつり。
それだけ呟いた。
⸻
以前なら。
きっと。
すぐにDMを開いていた。
「久しぶり!」
なんて送っていたかもしれない。
でも。
今は違った。
スマートフォンを持ったまま。
しばらく迷った。
送ろうかな。
どうしようかな。
別に。
もう以前ほど気になっているわけではない。
……たぶん。
そう思って。
ストーリーを閉じた。
⸻
その日の夜。
結局。
何も送らなかった。
「まあ、元気そうでよかった」
それだけ。
そう思って、スマートフォンを置いた。
ところが。
翌日。
また彼のストーリーが上がった。
そして。
その次の日も。
少しずつ。
彼がSNSに戻ってきたことが分かる。
どうやら。
長い間、何かに集中していたらしい。
以前話していた司法試験のこと。
⸻
「そっか……」
あの頃。
彼とのDMが減っていった理由。
今なら、少し分かる気がした。
私はもう。
それを寂しいとは思わなかった。
いや。
正確には。
少しだけ寂しかった。
でも。
それ以上に。
「頑張ってたんだな」
と思った。
⸻
そして。
数日後。
彼のストーリーに。
一枚の写真が上がった。
日本の風景だった。
私は思わず二度見した。
「……え?」
もう一度見る。
間違いない。
日本。
しかも。
見覚えのある場所だった。
⸻
少し迷って。
私は久しぶりにDMを開いた。
指が止まる。
最後に自分から送ったのは、いつだっただろう。
少しだけ緊張する。
でも。
昔ほどではない。
私は短いメッセージを送った。
⸻
返信は。
思っていたより早かった。
それだけなのに。
胸が少しだけ跳ねた。
……懐かしい。
この感じ。
以前は毎日のようにあった。
彼から返事が来ること。
それを見て笑うこと。
スマートフォンを握っていること。
でも。
今の私は。
あの頃とは違う。
⸻
少し話を続ける。
どうして日本に来たのか。
どこへ行くのか。
何日いるのか。
どうやら、試験を終えたご褒美に日本へ来ているらしい。
私は画面を見つめた。
司法試験の勉強。
あれだけ頑張っていたものが。
一つの区切りを迎えたらしい。
「お疲れさま」
そう送る。
そのあと。
少し間があって。
「そういえば、家が近くなんだよね?」
私は画面を見つめた。
⸻
近く。
確かに。
以前なら。
韓国と日本という距離があった。
会うには飛行機に乗らなければならない。
簡単には会えない。
でも。
今は。
同じ国にいる。
それだけで。
昔とは違う。
⸻
彼から。
「もし、時間あったら...」
その文字を。
私はしばらく見つめていた。
⸻
不思議だった。
あれだけ会いたかった人なのに。
あれだけ好きだった人なのに。
今は。
すぐに「会いたい」と返せなかった。
もちろん。
会いたくないわけじゃない。
ただ。
昔みたいに。
「会いたい、会いたい」
と心の中で騒ぐ感じではなかった。
私は少し考えてから、返した。
⸻
返信が来る。
「じゃあ、○日どうですか?」
私は予定を確認する。
空いている。
少しだけ笑った。
そしてまた送信。
⸻
画面を閉じる。
私は椅子にもたれた。
そして。
小さく息を吐いた。
「……また会うんだ」
不思議な感じがした。
一度。
好きになった。
一度。
振られた。
一度。
忘れようとした。
そして。
本当に少しずつ、忘れていた。
それなのに。
まるで。
何もなかったみたいに。
また。
会うことになった。
⸻
その夜。
ベッドに入ってから。
私はふと、昔のことを思い出した。
カフェで見た笑顔。
目尻がくしゃっと下がって。
口元が大きく開く。
あの無邪気な笑顔。
自転車から守ってくれたときの腕。
日本語を聞かれたこと。
韓国語を訂正されたこと。
そして。
「他の男、紹介しようか?」
と言われたこと。
あのときの痛み。
全部。
もう過去のことだった。
⸻
「……今、会ったらどうなるんだろ」
小さく呟く。
以前なら。
答えは分かっていた。
きっと。
また好きになる。
そう思っていた。
でも。
今は。
分からない。
私は一度。
この人を忘れかけた。
自分の生活を取り戻した。
彼がいなくても。
ちゃんと笑えるようになった。
だから。
今度会ったとき。
昔と同じ気持ちになるとは限らない。
⸻
そう思った。
それでも。
約束の日が近づくにつれて。
少しだけ楽しみになっていった。
何を着ていこう。
どこで会おう。
何を話そう。
そんなことを考える。
そして。
ふと気づく。
私は。
また服を選んでいる。
⸻
「……あれ?」
思わず笑った。
昔と同じだ。
でも。
少し違う。
昔は。
彼にどう見られるかが気になった。
今は。
久しぶりに会う友達に、少しでも綺麗に見えたらいい。
そんなくらい。
……本当に、それだけ。
そう自分に言い聞かせながら。
私はクローゼットの前に立った。
⸻
再会の日。
駅へ向かう道を歩く。
胸が少しだけ騒がしい。
でも。
昔ほどではない。
そして。
待ち合わせ場所が見えてきた。
人混みの向こう。
見覚えのある姿があった。
一瞬。
足が止まる。
⸻
彼がこちらに気づいた。
そして。
あの頃と同じように。
ふっと笑った。
目尻が、くしゃっと下がる。
口元が、大きく開く。
あの笑顔。
ずっと忘れていたはずなのに。
一瞬で思い出した。
⸻
胸の奥が。
小さく跳ねた。
私は思わず笑った。
「……久しぶり」
彼も笑う。
「久しぶりです」
その声を聞いた瞬間。
私はようやく気づいた。
忘れたと思っていたものは。
本当に消えてしまったわけではなかったのかもしれない。
ただ。
少しだけ。
眠っていただけだったのかもしれない。
そして。
その答えを知ることになるのは。
この日の帰り道だった。

