君を好きだと知った日-あの日、恋だと知らなかった――忘れた頃に、もう一度。

いつからだったのかは、分からない。

彼とのDMが日常になってから、しばらく経った頃。

私は、ときどき自分でも不思議な行動をするようになっていた。

何となくスマートフォンを開いて。

彼のプロフィールを開いて。

DMを開く。

新しいメッセージがない。

それだけなら、別に何も思わない。

……はずだった。

けれど、指はなぜか過去の会話を遡っていく。

少し前のやり取り。

そのさらに前。

初めてDMをした頃まで戻ってしまうこともあった。

「……何してんだろ、私」

自分でも呆れてしまう。

別に、読み返すほど大した内容じゃない。

今日の出来事。

趣味の話。

韓国の話。

大学の話。

くだらない冗談。

そんなものばかり。

それなのに。

一度開いてしまうと、なかなか閉じられなかった。



彼から連絡が来ない日がある。

もちろん、毎日必ず彼から始まるわけではない。

だから、彼からDMが来ないこと自体は何もおかしくない。

分かっている。

分かっているのに。

「今日は来てないな」

そう思ってしまう。

そして、そう思った自分に気づくと、

「いや、別に待ってたわけじゃないし」

と心の中で言い訳する。

誰に説明しているのかも分からない。



そんなある日。

いつものように、過去のDMを眺めていた。

彼の返信を読み返しているうちに、ふと思った。

私。

この人のこと、結構知ってるな。

どんなことを勉強しているのか。

どういうときに忙しいのか。

趣味を楽しんでいるときのこと。

韓国での生活。

何気なく話してくれたこと。

一つ一つは小さな情報なのに。

積み重なると、少しだけ彼の輪郭が見えてくる。

そして。

その輪郭を知ることが、私はどうやら好きらしい。

「……好き?」

思わず、その言葉が頭に浮かんだ。

けれど。

すぐに打ち消した。

「いやいや」

違う。

そういう意味じゃない。



だって。

彼は、私の好みのタイプではない。

少なくとも、最初に写真を見たときはそう思った。

ものすごく顔が好みなわけでもない。

一目惚れしたわけでもない。

むしろ、

「まあ、普通にいい人そう」

くらいだった。

それなのに。

DMをするようになってから、妙に気になる。

でも、それはきっと。

話が合うから。

それだけ。

話していて楽しい人なら、気になるのは普通だ。

返信を待つことだってある。

仲のいい友達から連絡が来るのを楽しみにするのと、きっと同じ。

私はそう結論づけた。



それでも。

彼のプロフィールを開いてしまう。

新しい投稿がないか確認する。

ストーリーが上がっていたら見る。

たまに彼が何かに反応してくれると、少し嬉しい。

そんな自分に気づくたびに、

「……いや、でも」

と考える。

恋愛じゃない。

だって、私は彼のことを「かっこいいから好き」なわけじゃない。

むしろ。

写真を見るたびに、

「実際に会ったらもっと印象違うんかな」

なんて考えてしまうくらいだった。

――会ったら。

そこまで考えてから、私は少しだけ手を止めた。

まだ会ったこともないのに。

「……何考えてんだろ」

スマートフォンを伏せる。



そんな頃だった。

私は韓国へ行くことになった。

予定を確認しているうちに。

ふと、彼のことが頭に浮かんだ。

韓国に行く。

そして。

彼も韓国にいる。

当たり前のことなのに、急に現実味を帯びてくる。

今までは画面の中だけだった。

毎日のように話しているのに。

実際には、一度も会ったことがない。

「……会ったら、どんな感じなんだろ」

そんな考えが浮かんだ。

すぐに、また自分で笑った。

会ってみたい。

ただ、それだけ。

きっと。

DMでこんなに話しているんだから、実際に会っても楽しいだろう。

それくらいの気持ちだった。



やがて。

会う話が出た。

ほんの少しのやり取りで、予定が決まっていく。

画面の中でしか知らなかった人と。

本当に会う。

そう思うと、不思議な感じがした。

楽しみ。

……なのかな。

いや。

楽しみなんだろう。

でも、どうしてこんなにそわそわするのかは、自分でもよく分からない。

服を選ぶ。

髪を整える。

当日の予定を何度も確認する。

「別にデートじゃないんだから」

自分に言い聞かせる。

友達に会うだけ。

趣味の繋がりで知り合った人。

毎日DMしている人。

それだけ。

だから、そんなに気にする必要はない。

そう思っていた。



そして。

韓国へ向かう日が来た。

飛行機の中で、何度かスマートフォンを開いた。

DMを確認する。

彼との最後の会話を見る。

少しだけ笑う。

もうすぐ、画面の向こうの人が。

本当に目の前に現れる。

そう考えると。

胸の奥が、ほんの少しだけ騒がしくなった。

でも。

それが何なのかは、まだ分からなかった。

楽しみなのか。

緊張なのか。

それとも。

もっと別の何かなのか。

私はまだ、その感情に名前をつけるつもりなんてなかった。

ただ。

「早く会ってみたいな」

そう思った。

それだけだった。



そして、

私は彼の前に立っていた。

初めて見る、実物の彼。

写真より少し違って見えた。

思っていたより。

ずっと――

「……なんか、かっこいいじゃん」

心の中で、そう呟いた。

けれど。

それでもまだ。

私は自分が、この人に惹かれ始めていることを知らなかった。