朝昼夜の三重人格な陛下と、第三王妃の聖女な薬師

 その頃、ランナとヒルはジョルノ国の王城に戻っていた。馬車で到着すると中には入らずに城の裏側へと回る。
 奥へと進むと城壁の隅の地面に、地下へと続く石の階段がある。二人はその階段を下っていく。

「へぇ、こんな所に地下牢があったんだな」
「え? ヒルくん、知らなかったの?」
「わざわざ城の裏側に行かないしな。ゴミ置き場だとは聞いてた」

 今まで昼の5時間しか活動できなかったヒルは城での行動範囲も狭かった。
 階段を下った先は暗い地下牢の通路が続く。先ほどランナが入れられていた牢屋のさらに奥で二人は足を止める。
 見張り番の兵に牢の鍵を開けさせると、中に収監されていた夫婦が同時に視線を向ける。

「……ランナ!」

 先に牢から出たエリーナは、自分にそっくりな金髪金眼の娘、ランナを抱きしめる。
 ランナは幼い頃に感じた母、エリーナの温もりを16年ぶりに抱きしめ返す。

「母さん……父さんも。もう外に出ていいんだよ。全てが終わったから」

 エリーナに続いて牢から出たガイスは妻と娘の再会を見守っていたが、やがてヒルの事に気付いた。
 見た目はヨルにそっくりだが金髪。ガイスは16年前に見たヴァクト陛下の昼の人格の少年、ヒルを思い出した。

「私はランナの父、ガイスです。君は……いえ、あなたはヒル様ですか? 今は夜のはず……」

 それに、ガイスとエリーナが調合した毒薬によってアサとヒルの人格は死んだと思っていた。
 ヒルとガイスはお互いに事情を知らない。それでも陽気なヒルは太陽よりも明るい笑顔で答える。

「あぁ、オレはヒル・ヴァクトだ。色々あって、オレとアサとヨルは別々の人間になった」
「え……別々?」
「あとランナと結婚した! よろしくな、お義父さん!」
「えぇ!? 結婚!?」

 ヒルは軽い口調の割に衝撃の内容を伝えてくるが、ガイスが何よりもランナの結婚に驚いてしまうのは父親の性であった。
 思えばランナもポーラも国王と結婚した訳で、ガイスとエリーナの驚きは今後も止まりそうにない。
 抱き合うランナとエリーナ、そして見守るガイスの前でヒルは急に真面目な顔になる。

「今まで牢屋に閉じ込めていて、すまなかった。ヨルに代わって第三国王であるオレが謝罪する」
「ヒルくん……」

 両親との再会で涙ぐんでいたランナの瞳から新たに別の感情による涙が溢れだしていく。
 すっかり国王の顔になっているヒルは、ランナとの未来よりも先にガイスとエリーナのこれからを気遣う。

「これからの生活は国が全て保障する。ヨルが帰ってきたら謝罪させる。本当にヨルは悪魔だよな、まったく。一度死ねっての!!」

 最後はいつものヒルの口調に戻ってきている。それを言うなら、すでにヨルは一度死んで生き返っている。アサもヒルも同じだ。
 相変わらずツッコミどころが多いヒルの発言にランナは笑ってしまうが、その笑顔の意味はそれだけではない。

「ヒルくん。ヨル様は悪魔じゃないよ。ねぇ、もっと奥の牢屋も見てきてくれる?」

 ランナはその牢屋の中を見た事はないが確信している。ヨルがガイスとエリーナを処刑せずに地下牢に閉じ込めていた事が、何を意味するのかを。
 ヨルは悪魔ではない。だから悪魔には『なりきれない』のだと。それを実証するための答えはランナが示す方向にある。

「よく分からないけど、分かった」

 ヒルは一人で歩きだして暗い通路を進んでいく。一番奥、突き当たりの壁際にある牢屋。そこに全ての答えがある。