朝昼夜の三重人格な陛下と、第三王妃の聖女な薬師

 そんな銀髪碧眼の夫婦の隣ではヒルが目覚める。呑気にあくびをした後、ゆっくりと起き上がる。

「ふわぁ……あぁ、ランナ。もう昼飯の時間か?」
「ヒルくん……ヒルくんっ!!」

 ランナの歓喜の声と同時に乾いた音が夕焼けの空にまで弾け飛ぶ。さらにヒルの顔も横に弾けた。
 なぜか放たれたランナのビンタは以前よりも強力だった。その痛みすらも確かにヒルが生きている証となる。

「おぉい! だから、なんで笑顔で叩くんだよ!? オレ寝起きだぞ!? 生き返ったんだぞ!?」
「誰のおかげよ、バカぁ……」

 ランナがポロポロと大粒の涙を零し始めたので、ヒルは両腕を伸ばして抱きしめる。二人の鼓動の音と金色の瞳が重なる。

「ヒルくんの瞳の色……金色になってる!」
「え? あ、マジか!? はは! これでランナとお揃いだな!」

 悪魔の魂が聖女の体内で浄化されたのだろうか。今のヒルの瞳の色は悪魔の赤ではなく、真昼に輝く太陽のような眩しい金色に生まれ変わっていた。
 そんな金髪金眼の夫婦の隣ではヨルが目覚める。静かに起き上がると、眩しい金色の瞳がヨルの瞳に反射する。

「ポーラか……。オレは……」
「ヨル様、もう大丈夫……もう悪魔にならなくても大丈夫だから」

 ポーラの金の瞳から涙が溢れて頬を伝う。ヨルの孤独を包むようにポーラは彼の体を抱きしめた。
 ヨルはもう悪魔ではない。今のヨルの瞳の色は悪魔の赤ではなく、闇夜を照らす満月のような金色に生まれ変わっていた。
 ヨルは片手を伸ばすとポーラの頬を包んで撫でる。指先で優しく涙を拭き取りながらポーラの瞳を見つめる。

「不思議だ……心が軽い。そうか、オレは前世からポーラを愛していたのだな……」
「……私は前世も今世も来世でもヨル様を愛するわ。だから安心して……」
「ありがとう」

 ヨルは満月の瞳を細めると、初めて優しく微笑んだ。もう悪魔になる必要はない。誰にも愛されなかったヨルは、ポーラという永遠の愛を手に入れたのだから。
 黒髪金眼の夫婦。そして三者三様の王と王妃が抱き合う場所から少し離れた後方には、主の姿を見守る軍人・カレンの姿があった。

(アサ様、ヒル様、ヨル様。これがヴァクト陛下の本当のお姿なのですね)

 僅かに微笑んだカレンが視線を落として床を見ると、そこにはヨルの体を貫いた矢だけが落ちている。
 三つの魂と三人格を宿していた体は血痕すら残さずに消えていた。