朝昼夜の三重人格な陛下と、第三王妃の聖女な薬師

 ポーラが剣を振り下ろした先はヨルの体ではなく、その後ろにある祭壇だった。

「私がヨル様の願いを叶える!!」

 一刀両断とはいかなくても、祭壇の真ん中に重い刃が沈み込んだ。そこから走った亀裂の隙間から暗黒の魔力が煙のように吹き出していく。
 祭壇の前に立つポーラの横にはヨル、少し離れた右側にランナ、左側にモニカ、後方にはカレン。祭壇を囲んでいた誰もがポーラの行動を予想できなかった。

「ポーラ姉さん!?」

 ランナが声を上げた時には、もう遅い。祭壇が破壊された事で、最強の悪魔の体は封印から解き放たれる。
 ポーラは呪いが解けてもヨルへの愛を貫き、最後の最後に王妃たちを裏切った。
 その中でもヨルだけは黒い魔力に満ちていく神殿の天井を見上げて笑う。

「よくやった、ポーラ。これでオレは最強の悪魔だ!!」

 地響きと共に床は揺らぎ、祭壇から伸びる亀裂は天井を支えている柱をも侵食していく。
 モニカは全身に感じる邪悪な悪魔の魔力の恐怖と、破壊されていく神殿を目にした絶望に震えている。

「どうすればいいの……アサ様……!!」

 自分の胸に手を当てて体内のアサに語りかけるが返事はない。
 その時、天井を仰いでいたヨルが急に振り返ってポーラの手を掴んで引き寄せる。ポーラの体を全身で包んで抱きしめると体を反転させて再び祭壇の方を向く。
 まるで何かからポーラを守るような体勢。ヨルの咄嗟の行為を見たランナは思い出した。

(ルアージュ様の刃から私を守ってくれた時も、ヨル様は背中で……)

 次の瞬間、ヨルの背中に銀色の刃先を持つ細く長い棒が突き刺さる。その矢は音もなく壇下から放たれていた。
 ヨルに矢が刺さるよりも先に敵の気配に気付いて最初に振り返ったのはカレンだった。

「しまった、敵兵……!!」

 カレンは祭壇に背を向けて走り出すと階段を下って敵兵を追う。レッドリア国への侵攻の最中、国境を越えて敵軍もジョルノ国に侵攻してきていた。
 ここは国境に近い位置であり、ヨルがこの神殿に向かった事は敵軍に知られている。
 侵入してきた敵兵は少数だが、単身でこの場所に来たヨルには味方の兵がカレンしかいない。
 二本の剣を腰に帯びていたカレンは残りの一本を鞘から抜いて走る。外へと逃げた敵兵に続いて出口を抜けようとするが、迫り来る炎と熱風に行く手を阻まれる。

(出口に火を放たれた!)

 おそらく神殿の周囲にも火を放たれて逃げ道は塞がれている。神殿の内部は立ち上る暗黒の魔力、そして炎の黒煙によって黒の世界へと塗りつぶされていく。
 さらに封印が解かれた事により神殿の柱が次々と崩れ落ちていく。神殿が崩壊するのが先か、燃え尽きるのが先か。絶望的な状況としか言えない。