朝昼夜の三重人格な陛下と、第三王妃の聖女な薬師

 カレンは真っ直ぐにランナを見据えながら、その疑問に答える。

「私の父上の先祖は『使い魔』でございます。古の時代からヒルマ様に忠誠を誓う一族でございます」
「ヒルマって、三匹の悪魔の? え、ちょっと待って、父上って、まさか?」
「はい。隣におります、デイズが私の父上でございます」
「えぇ!?」

 次々と明かされる衝撃の事実に、ランナの口からは驚きの声しか出ない。
 確かにデイズもカレンも黒髪で口調も雰囲気も似ているが、同じ城にいるのに親子らしい会話を交わしているところなんて見た事がなかった。

「え、でも、カレンさんもデイズさんも中立って言ってたのは!?」
「朝と夜の中間。日中の昼に立つという意味でございます」

 カレンとデイズがいつも『中立』だと言うのは、朝昼夜の『真ん中に立つ』、つまり昼を指す。ヒルの使い魔であるという意味の隠語であった。
 当然ながらデイズとカレンは、ヒルの妃であるランナにも忠義を尽くす。カレンはランナの前で身を低くすると片膝を地につけて跪く。

「ヨル様は一足先に戦地に向かいました。ランナ様、モニカ様、ポーラ様。どうかヴァクト陛下をお救いください」

 カレンも分かっていた。ヨルがヴァクトの体を支配した今の状況で、全ての人格を救うにはランナたち聖女の能力が必要なのだと。
 三人の王妃たちは、それぞれの愛する人を思い浮かべながら頷いて返す。

「うん。当然だよ、私は絶対にヒルくんを救う!」
「私に愛と幸せをくださったアサ様を今度は私がお救いしますわ」
「私はヨル様を孤独と苦しみから救いたい」

 王妃たちの愛と決意を受け取ったカレンは、ようやく微笑んだ。
 そんなカレンの背後には四輪の馬車が控えていた。それは戦地に向かう騎兵しかいない中での唯一の客馬車。
 三人の王妃は馬車に乗り込み、後陣の騎馬隊の後に続く形で戦地・レッドリア国へと向かう。



 その頃、レッドリア国に攻め入った先陣の軍隊は国境を軽々と突破して王城へと侵攻していた。
 ジョルノ国軍の奇襲を防ぎきれなかったレッドリア国軍は王城をヨルに明け渡してしまう。
 玉座の間に追い込まれたファイア王は、迫り来る漆黒の悪魔に無抵抗のまま拘束される。

「さて、ジジイ。神殿の在り処を教えてもらおうか」

 床にひれ伏すファイアを見下ろすヨルは武装していない。最強の魔力を持つヨルには武器も防具も必要ない。
 漆黒のマントに身を包み、赤い瞳を鈍く光らせるその姿は悪魔そのもの。
 しかしファイアの瞳も負けてはいない。かつてランナによって救われた命の炎は以前よりも強く熱く燃え上がっている。

「ヨル殿も知っているだろう。城下町を抜けた先にある神殿を……!」
「ふん、あの神殿はフェイクだ。あそこにオレの体はない」

 ヨルがファイアを問い詰めている横には、兵士に拘束されて身動きが取れないルアージュがいる。

(ヨル様は何を仰ってますの? 神殿に封印された悪魔が、ヨル様の体?)

 レッドリアの聖女であるルアージュは、今までに感じた事のない強力な魔力をヨルが纏っている事に気付いた。
 悪魔のような男だとは思っていたが、本当の悪魔のような魔力と邪気を感じる。今のヨルに対しては憎しみよりも恐怖の方が強い。

(ヨル様には悪魔が取り憑いて……いえ、悪魔に乗っ取られていましたの?)

 ルアージュは不思議と納得すると同時に恐怖は哀れみに変わる。それならば仕方がないと、ヨルの過去の行いさえも許せてしまえるほどに。