朝昼夜の三重人格な陛下と、第三王妃の聖女な薬師

 ランナの決意の強さは増した。真実の愛を知ったからこそ、全ての愛を救いたい。

「モニカ様、ジョルノ国に伝わる昔話を知ってますか? 三匹の悪魔の物語です」
「えぇ、レッドリア国にも伝わるお話ですわ……もしかして!」
「はい。答えは全て、その物語にあります」

 ヨルが次にどこへ行き、何をしようとしているのか。そして聖女たちの力で奇跡を起こす方法も。

「モニカ様、一緒に行きましょう。ポーラ姉さんも一緒に」
「……はい!」

 もう足は震えていない。二人は顔を合わせて頷くと同時に立ち上がる。出入り口のドアに体を向けた時、そこにはいつの間にかポーラが立っていた。

「……ポーラ姉さん?」

 ランナが問いかけてもポーラは返事をしない。ポーラの頬には涙の筋が流れている。涙によって呪いの闇色が流れ落ちたのか、瞳の色は本来の金色を取り戻していた。
 ランナは、そのポーラの瞳の色だけで全てを察した。

「姉さん……地下牢に行ったのね?」
「……やっぱりランナが毒を作るなんて考えられなかったから……」
「父さんと母さんに会ったのね?」
「えぇ……」

 感情が溢れたランナは飛び込むようにしてポーラの胸に抱きついた。ポーラはランナの背中と頭に腕を回して抱きしめ返す。

「ランナ、ごめんなさい……私のせいで、誰も救えなくて……」
「ちがうの、姉さん。誰のせいでもないの……」

 ヨルにかけられたポーラの呪いは解けている。ポーラは自身に呪いがかけられていた事も、呪いが解けた事にも気付いてはいない。
 やはりポーラもランナと同じく最強の聖女の血筋。呪いを解かなくても、自らの強い思いだけで呪いの効果を打ち消した。
 これでヨルに対するポーラの愛も消えたかと思えば、そうではなかった。ポーラの金の瞳は今もヨルへの愛に満ちている。

「でもお願い、ヨル様を責めないで。ヨル様は孤独なお方なの。常に殺される恐怖に怯えていて……敵を殺す事で自分を守るしかないの」

 誰よりも魔力が強いヨルは、誰よりも心が弱かった。親からも他人格から命を狙われる恐怖と憎しみで、他人を殺す事でしか身を守る方法を知らない。
 アサのように国民の誰からも慕われている訳でもなく、ヒルのように親に愛されていた訳でもない。
 太陽の日の下で照らされているアサとヒルとは対照的に、ヨルは常に日の当たらない影の存在。常に暗闇に身を置く夜の人格だった。
 ランナはもう一度モニカと顔を見合わせると同時に頷く。

「分かってるよ、姉さん。私たちはヨル様を憎んでいない」

 ヨルを責めるつもりもない。ヨルを動かしているのは、遠い昔に封印された悪魔の魂。ヨルを苦しめているのは、遠い昔の聖女エリスの呪縛。
 現代の『最強の聖女』である王妃の三人ならば、その呪縛からヴァクト陛下の三人格を解き放てる。

「私たちでアサ様、ヒルくん、ヨル様を救いに行こう」

 ランナの凛とした金色の瞳は真っ直ぐに前だけを向いている。