朝昼夜の三重人格な陛下と、第三王妃の聖女な薬師

 恐る恐るモニカとポーラの反応を見ると、二人とも目を丸くして純粋に驚いている様子でいる。

「ランナさんの発想、興味はありますわ。争いは良くありませんものね」

 呪いで倫理が崩壊しているはずのモニカの口から聖女らしい意見が返ってきた。これは期待できるかもしれない。
 モニカに続いて、ポーラも穏やかな瞳と口調でランナに言葉を返す。

「ランナらしい考えよね。私も詳しく聞きたいわ。何か良い案でもあるの?」

 最も強い呪いに支配されているポーラでさえ否定せずにランナの意見に乗ってきた。このチャンスを逃す訳にはいかない。

「私たちは聖女だから、三人の能力を合わせれば奇跡の力が生まれる気がするの」

 つまり三人の王妃が心を一つにして力を合わせる。先ほどのパン作りみたいに、三人で同じものを作り上げる事で奇跡が生まれるのだと。
 しかしランナの意見は抽象的すぎて内容が伝わらない。そこはポーラが冷静に指摘する。

「つまり具体的に、私たちの力で陛下をどうしたいの?」
「例えば三人格を分離して、三人が別々の体を持って、アサ様、ヒルくん、ヨル様、三人の人間にしたい!」

 今度は空想的すぎてポーラは呆気に取られてしまう。確かに三人格が別々の人間として存在すれば、それが理想だろう。
 しかしヴァクト陛下の体は1つ。人格を分離できたとしても体は分離できないし増やす事はできない。
 ポーラとモニカが黙り込んでいる前でランナは熱弁を続ける。

「つまり私たち王妃は争うんじゃなくて、力を合わせましょう! 団結しましょうってことです!」

 ランナは勢い余って立ち上がり、腰から下だけを湯に浸けた状態で堂々と胸を張って宣言する。
 真面目なはずなのに、なぜかおかしくてポーラとモニカは吹き出して笑ってしまう。

「分かりましたわ。私は今日、お二人と過ごして楽しかったですし、今後も仲良くしたいですわ」
「そうね。私も目が覚めた気がするわ。ランナに冷たく当たってごめんね。今後は協力するわ」
「モニカ様、ポーラ姉さん……」

 ランナは目を潤ませながら再び座って肩まで湯に浸かる。左手だけを湯の上に出すと、手の甲を向けて二人の前に差し出す。

「じゃあ、約束の証。手を合わせましょう」

 モニカとポーラは同時に頷くと、ランナの手の甲の上に手を重ね合わせる。
 三人の左手の薬指にはそれぞれ、白銀の指輪、金色の指輪、漆黒の指輪。朝と昼と夜の王妃の心が重なった瞬間でもあった。

 しかし、本来は金色であるはずのポーラの瞳は漆黒のまま。
 呪いは消えた訳ではない。約束という不確かなもので絆を結んだ気でいるランナは、残酷な現実に目を向けてはいない。