朝昼夜の三重人格な陛下と、第三王妃の聖女な薬師

 午後5時以降のランナは基本的に一人で過ごすが、元来の明るい性格で城の従事者たちとも打ち解けていた。
 夕食も従業員用の食堂でメイドたちに混ざって楽しく食べるし、話し相手には困らない。

「ランナ様、ヒル様とは毎日キスしてるんですか?」
「え、うん、まぁね。夫婦だしね! って何言わせるのよ!」
「どうりで! 最近のランナ様、大人っぽくなられてお綺麗ですもの!」
「そ、そうかな!? ヒルくんのおかげ、かな?」

 若いメイドたちに囲まれて女子トークを広げるのは楽しい。城で働く者たちは陛下の三重人格を知っているので気兼ねなく話せる。
 だが、それは国家機密なので外で口外すれば重い罪になる。その秩序によってヴァクト陛下の秘密は守られてきた。

 そんな暮らしの中でランナが寂しさを感じてしまうのは就寝時。主のいない部屋で大きすぎるベッドに一人で身を沈める。
 ランナはベッドの上で仰向けになるとアサから渡された文庫本を手に持つ。

(図書館から借りた本だから、早く読まなきゃ)

 まるで何かに背中を押されるように表紙を開くと、その物語の世界へと引き込まれていく。
 ジョルノ国に古くから伝わる物語らしいが、田舎町にいたランナは全く触れる機会がなかった。
 実話ベースらしいが、読んでみるとファンタジー要素が濃いので、どこまでが史実なのか分からない。

(遥か昔、ジョルノ国には三匹の悪魔がいた。アサルト、ヒルマ、ヨルデオ……え?)

 心で本を読み上げるランナの声が詰まった。三匹の悪魔の名前は、アサ・ヒル・ヨルを連想させる。
 そういえば、ヒルは自分の先祖は悪魔らしいと言っていた。それが真実ならばヴァクト家は三匹の悪魔の子孫なのだろうか。
 恐る恐る読み進めるが、なぜか怖くなって序盤で本を閉じてしまった。物語から逃げるようにして思考を別の方向に移す。

(三人格が争うなら、三人の王妃が結託して陛下を説得できないかな)

 しかしモニカとポーラには指輪の呪いがかかっている。ランナが呪いを解いたとしてもアサとヨルが何度でも呪いをかける。
 呪いを解くのではなく、三人の王妃の絆が呪いに打ち勝てばいい。そのために親交を深める方法を考えてみる。

(一緒にお料理するとか、お風呂に入るとか?)

 庶民のランナには、お茶会とか晩餐会という貴族らしい発想は頭にない。
 思い立ったランナは起き上がると、部屋のどこかの虚空に向かって呼びかける。

「カレンさん!!」

 ランナの声が響いてから僅か数十秒。寝室のドアが開いて、こんな時間でもメイド服のカレンが入ってきた。いつもの無表情で。

「カレン、参りました。何か御用でしょうか、ランナ様」

 ベッドの前で跪くと主人であるランナを見上げて命令を待つ。カレンは口調や態度からしてメイドではない。武士か忍のようだ。
 そしてランナも、呼べば現れるカレンを便利に使っていたりする。

「モニカ様とポーラ姉さんと一緒にパン作りをしたいの。明日、お昼になったら二人を昼の城に呼んでくれる?」
「承知しました」

 昼間ならヒルは仕事があるので自室や厨房に来る事はない。純粋に王妃三人だけでの女子会、いや親睦会にしたかった。
 正直、呪いに支配された今のポーラと会うのは怖いが、ランナは能力や薬を使わずに本来のポーラを取り戻したいと思う。