朝昼夜の三重人格な陛下と、第三王妃の聖女な薬師

 庭園を一周してから二人は馬車に乗り、再び城下町へと入って王城への帰り道を行く。
 今の時刻は11時過ぎ。アサとデートしていられるのはヒルの人格に変わる12時まで。かと思うと、城下町の道の途中で馬車が止まった。
 降りてみると、目の前には尖った屋根がいくつも連なる石造りの建物。赤茶色で塗られた小さい城のようだ。

「アサ様、この建物は?」
「入ってみれば分かります」

 言われるままにアサと一緒にエントランスを通り抜けると、広大な室内には木製の本棚が延々と並んでいる。
 ランナは、こんなにたくさんの本棚も本も見た事がない。

「すごい! 王都には、こんなに大きな本屋さんがあるんですね……!」
「本屋ではありません。ランナさんは図書館は初めてなのですね」
「わぁ、これが図書館! 初めて来ました!」

 辺境の田舎町で暮らしていたランナにとって図書館は初めての場所だった。本を買うのではなく借りる場所なんて斬新だと思った。

「僕はこの図書館の本を全部読みましたよ」
「え、本当ですか!? すごい!!」
「冗談です。まぁ半分くらいは読んだかもしれません」

 笑うべきなのか感心すべきなのか。澄んだ笑顔で冗談を言うアサの性格が掴めない。知的で聡明なのは間違いない。
 アサには目的の本があるらしく、迷う事なく本棚から1冊の本を取り出して手に持つ。
 その1冊だけを借りると、アサとランナは図書館を後にした。

 帰り途中の馬車の中でアサが懐中時計を取り出して確認すると、間もなく昼の12時。
 アサは図書館で借りた本を隣に座っているランナに差し出す。それは文庫本サイズの小説だった。

「読んでみてください。ランナさんが知りたい事のヒントが得られますよ」
「ヒントですか? 実話の物語なんですか?」
「ジョルノ国に伝わる昔話です。あ、もう時間ですね。今日は楽しかったです。では、また」

 アサの銀色の髪が毛先から浸透するように塗り替えられて黄金に煌めいていく。完全に金色に染まると人格が変わる。

「お~! ランナ! あれ? ここって馬車の中か!?」

 ヒルは車内をキョロキョロと見回している。どうしても人格が変わった直後は状況と場所を把握するのに時間がかかる。
 ようやく隣のランナと目を合わせると、ヒルはランナの両肩を掴んで揺らす。

「おいランナ、まさかアサと二人で出かけていたのか!?」
「うん。アサ様とデートしてた」

 ランナは少し意地悪をして返した。アサの冗談っぽい口調が移ってしまったのかもしれない。
 素直で単純なヒルは歯を食いしばって必死にランナに迫っていく。予想通りの分かりやすい嫉妬で笑えてくる。

「ランナぁぁ!! オレという夫がいながら浮気かぁ!! 言えよ、オレの何が不満なんだ!? いやアレか、アサが強引にランナを……」
「あ、ごめん。冗談。私がデートするのはヒルくんだけだから」
「へ……」

 ようやく我に返ったヒルは、空気が抜けた風船みたいにフニャフニャになって椅子に座り直した。
 呼吸を整えてから改めて視線を交わすと、ヒルは再びランナに向かって両腕を伸ばす。今度は全身を優しく抱きしめた。

「ったくランナ、オレを弄ぶなよ……。アサはヨルほど危険な奴じゃないが、気を付けろよ。な?」
「……うん」

 ランナはヒルの温かい背中を片手で抱き返す。もう片方の手はアサから手渡された本を握りしめていた。