朝昼夜の三重人格な陛下と、第三王妃の聖女な薬師

 不可思議な現象を目の当たりにしたガイスとエリーナは、ただ唖然とするしかなかった。
 キョロキョロと首を動かしているヒルの肩をクロノスが抱いて落ち着かせる。

「見ての通りです。息子は一日に人格が三回変わるのです」

 数々の患者を診てきたガイスでも前例のない症状に困惑する。これが病なのか、薬で治るものなのかも未知であった。
 ガイスはカルテに症状を記入しながらも頭を抱えてしまう。退屈になったヒルは椅子から降りると部屋の中を歩き回る。
 奥の部屋へと続く出入り口に近付くとドアが急に開いて、そこから幼い女の子が飛び出してきた。

「お母さん~! お腹すいたぁ! あれっ!?」

 3歳くらいの女の子は、3つほど年上のヒルを見上げて動きを止める。かと思うと、すぐに笑顔になる。

「こんにちは! 私、ランナ! お兄ちゃんはカンジャさん?」
「よぉ、オレはヒルだ! よろしくな! ランナちゃんは、あのお医者さんの娘か?」
「うん! ヒルくん、私と髪の色が同じだね!」

 ランナとヒルは二人とも美しい金髪で、明るく人懐っこい性格も同じ。共通点が多い二人は出会ってすぐに仲良くなった。
 子供たちが部屋の隅で無邪気に遊んでいる間に、大人たちは真剣な話を進めていた。

「つまり、息子さんの人格を1つに統合したいという事でしょうか」
「正確には統合ではなく、1つの人格だけを残したいのです」

 クロノスの不穏な発言に、ガイスの隣で話を聞いているエリーナが不安そうに瞳を揺らしている。
 それはつまり、残りの2つの人格を『殺す』という意味と同じ。そのための魔法薬を求めて来たという。

「アサは大人しくて、ヨルは無感情。社交的なヒルが跡継ぎに相応しいのです」

 クロノスの話を聞いていると、ヒルは貴族の跡取り息子なのだと分かってきた。
 しかしガイスも二人の娘の父親。患者の身分に関係なく、その依頼は受け入れがたい。

「申し訳ありませんが、お受けできません」
「なぜです? 不可能ではないでしょう。妻も同意してますよ」
「なおさら考え直して下さい。人格だけとはいえ息子さんお二人を殺す事と同じです。それに僕たちの薬は、そんな……」

 話の途中で、クロノスは手に握っていた懐中時計を裏返してガイスの目の前に差し出して見せた。
 銀色の懐中時計の背面には白い薔薇の紋章が刻印されている。それはジョルノ国の王家の象徴。

「申し遅れたね。私はジョルノ国王、クロノス・ヴァクト。君たちに拒否権はないのだよ」

 低姿勢で紳士的な態度から一変したクロノスは、ガイスに威圧的な態度で迫った。