朝昼夜の三重人格な陛下と、第三王妃の聖女な薬師

 いつもは一人で寝ていたキングザイズのベッドが今は少し狭く感じられる。
 カーテンは閉めていても正午過ぎの部屋は明るくて、ヒルの金の髪も素肌の色も明るく輝いて見える。

「ランナ、愛してる。愛してる」

 ヒルはランナの耳元で何度も何度も愛を囁く。まるで呪いの呪文のように。ランナの身も心も愛という呪いで支配されていく。
 二人で肌を重ねる事が、こんなにも熱くて幸せだなんて初めて知った。

「オレたち、やっと夫婦になれた感じだな」

 ヒルの腕枕に頭を預けているランナは小さく頷く。ヒルの腕がこんなにも逞しくて頼もしいのも初めて知った。
 ランナは涙を浮かべながら瞳を閉じて愛を感じ取る。ヒルの胸の中に埋めている身体が火照りと悦びで満たされている。

「私、ヒルくんが好き」
「へへ、嬉しいな。でもまぁ当然だな」
「……バカ」

 ランナの金色の長い髪を撫でたり指に絡めたりしていたヒルは、上半身を少し起こすと両肘をついて覆いかぶさる。
 改めて視界に飛び込むヒルの鎖骨や胸筋のラインの美しさに見惚れてしまう。ランナは今さら赤面して身体まで再熱してしまう。
 さらに唇を接近させたヒルはランナの耳たぶを甘噛みした。耳元に吐息がかかり愛を囁くと思ったのだが。

「なぁ、ランナ。そろそろいいだろ。作ってくれよ、薬」
「……え?」

 夢見心地だったランナの意識が現実に戻る。ヒルの口から紡がれたのは愛の言葉ではなく、悪魔の残酷な願望だった。

「オレはこんなにもランナを愛してる。これでランナの聖力は最大まで高まっただろ」
「やめて……」
「なぁランナ、頼むよ。アサとヨルを殺すための薬を……」
「やめて、やめて!!」

 ランナはヒルの体を押し退けて横に逃れた。ランナが目を背けたい現実、それはヒルの愛が目的のための仮初めであるという事。
 それが涙が出るほどに辛く悲しいと感じる事で、ランナは本当にヒルを愛しているのだと自覚した。

「どうして殺す事ばかり考えるの? 他の方法を考えないの? 私は……私の薬は、殺すための道具じゃない!」
「あぁ、ごめん、ランナ。でも信じてくれ、オレはランナを本気で愛してる」

 ヒルはランナの涙を指で拭うと、乾きかけた唇に柔らかく口付けて潤いを与える。互いの両手を重ねて指を絡めると指先まで熱くなる。

(ヒルくんは本当に悪魔みたいに……ずるい……)

 その温もりと安心感にランナは自然と瞼を閉じて、やがて眠ってしまった。