朝昼夜の三重人格な陛下と、第三王妃の聖女な薬師

 夕方5時を過ぎるとランナの診療時間は終わる。奥の部屋から姉のポーラが来て、リビングにいるランナとバトンタッチする。

「ランナ、お疲れ様。あら? その指輪……」

 ポーラはランナの指輪を見て驚くというよりは、指輪に何かを感じ取った様子でいる。ランナは変な誤解をされないように説明する。

「貴族の患者さんからもらったの。呪いの指輪みたいで外せなくて……姉さんの力で解ける?」
「後でやってみるから私の仕事が終わるまで待ってて。何か異変が起きたらすぐに言ってね」
「うん。じゃあ姉さん、夜の仕事頑張って!」

 ランナが奥の部屋へと入っていくと、ポーラから微笑みが消えてクールな薬師の顔になる。
 昼から夜へと切り替わるこの時間、昼の明るさから夜の暗闇へと移り変わる。昼担当の陽気なランナと夜担当の冷静なポーラは、まさに昼と夜の象徴であった。
 ポーラがテーブルに着席すると、夜の診療の最初の患者が入室してくる。黒髪の若い男性だが様子がおかしい。入り口のドアの横の壁に寄りかかり、胸を片手で押さえて息を切らしている。
 急患だと思ったポーラは席を立って駆け寄っていく。

「大丈夫ですか? どこか具合が……」

 ポーラが顔色を確かめようとして覗き込むと、伏せていた男性の顔が一気に上がる。ポーラの金色の瞳に重なったのは、真っ赤な色素に染まった悪魔の瞳。
 人とは思えない瞳に慄いたポーラが咄嗟に離れようとするが、男がポーラの両肩を掴んで強引に壁に押し付けた。

「貴様か……オレを殺そうとした薬師は……!」
「え……うっ!?」

 言葉を発するよりも早く、男がポーラの首を両手で締め上げる。しかし男の方も苦しそうで本来の力を出せないのか、次第に手の力が弱まる。
 その隙にポーラは男の手から逃れて距離を取る。その拍子に後方の椅子にぶつかって、大きな音を立てて椅子が床に倒れる。

「あなたは何者ですかっ……!!」

 いつも冷静なポーラが息を切らしながら声を荒らげる。対する男は、苦しさに耐えられなくなったのか膝を折って床に両膝をつく。
 ポーラは恐る恐る男に近付いて再び男の顔色を確かめる。
 年齢は20代前半くらいだろうか。上質な黒いマントを纏っていて、身なりからして貴族だと思われる。いや、今は服装よりも容体が気になる。

「ご気分が悪いのですか? どこか痛いのですか?」

 ポーラは優しく静かな口調で男に問いかける。ポーラは何よりもまず男の診察を優先した。それほどに男の顔色が良くない。
 ポーラの長い黒髪と月のような金色の瞳は、まるで月夜。夜の闇と静寂に取り込まれるようにして男の赤い瞳の炎が落ち着きを取り戻す。

「貴様……オレに何の薬を渡した……」

 顔を歪めて鋭く睨む赤い瞳は、苦痛によるものではなく憎悪の色に満ちている。しかしポーラは先ほどからこの男の言う事が全く理解できない。