朝昼夜の三重人格な陛下と、第三王妃の聖女な薬師

 祭壇に押し倒されたあの日のように、吐息がかかるほど近くに闇が迫り来る。

「ならば貴様がポーラの呪いも解くがいい。オレは何度でも呪いをかけてやる」
「……! 姉さんをどうするつもりなの?」
「ポーラは最強の聖女の片割れだ、愛してやる。貴様次第だがな」

 つまりヨルはポーラを人質に取っている。ランナとポーラを意のままに動かして、人格を殺す毒薬を調合させるために。
 それ以前にランナは今、自分の身が危険である事に気付いた。ヨルならば、この場でも事に及んでしまう。

「や、やめてヨル様……こんな場所で……」
「甘い。オレはどこでもやるぞ」

(ドヤ顏で言わないで!)

 場所の問題ではないが、まさか馬車の中で押し倒されるとは思わなかった。よく考えたら祭壇でも押し倒すほどの男だ。
 ヨルには力でも聖力でも勝てない。非力な自分を悔やむが、どうする事もできない。
 吐息が近付き重なろうとした、その瞬間。ランナを拘束しているヨルの手の力が急に緩んだ。その顏は苦痛に歪んでいるように見える。

「ヨル様……?」
「ぐ……この不快感……は……」

 ヨルは手を放して起き上がり、胸に手を当てて呼吸を荒くしている。薬師のランナは冷静にヨルの症状と顔色を見るが、車酔いではないと分かる。
 何かに気付いたヨルはローブのポケットに手を入れて中を探る。そこから出てきたのは小さなガラスの瓶。中には粉薬が入っている。

「あ、それは、私が調合したヒルくんの風邪薬……」
「ヒルのやつ……め……」

 ヒルは、ヨルがランナに手を出す事も想定して事前に薬を飲んでいた。人格が変わると生気も変わるのでヨルの体には合わずに具合が悪くなる。
 こんな時にでもヒルに守られているという愛情を感じて、ランナの心は温かく満たされていく。