朝昼夜の三重人格な陛下と、第三王妃の聖女な薬師

 純白の国が夕日のオレンジに色付き始めた頃、王城を出た馬車はレッドリアの国境を出た。
 馬車の中ではランナとヨルが隣り合って座っているが終始無言であった。国境の門を越えたのを確認するとランナが独り言のように呟く。

「あれ? 国境の門がヨル様の魔力に反応しない」

 行きはヒルの魔力に反応して兵に囲まれて大変な事態だった。ヒルよりも強いヨルの魔力を感知しないのが不思議に思う。
 ヨルはフードを脱いで黒髪を曝すと、ランナに目を合わせずに外の景色を眺めながら返す。

「普段は魔力を最小限にまで抑えている。ヒルには出来ない芸当だがな」
「……さすが」

 ランナは素直に感心してしまった。これならアサもヨルも聖なる国で活動できる。ヒルに関しては魔力が弱く不器用なところは憎めない。
 何にしても、レッドリア国の件に関しては無事に和平に持ち込めた。一応はヒルのふりをしてくれたヨルにも感謝する。
 ランナはお礼を言う代わりに今日の出来事をヨルに詳しく話した。ヨルは黙って聞いているだけなので、ランナの一方的な語りになってしまう。

「でも、ファイア様に呪いをかけた人は誰なんだろう」
「なるほどな。貴様がオレの呪いを解いたのか」
「……え?」

 ランナは耳を疑った。いや、聞き間違いであってほしい。あまりにも淡々とした口調で紡がれたヨルの一言は衝撃的すぎた。
 ようやくヨルの方に顔を向けると、ランナの揺らぐ金色の瞳に無感情な紅蓮の瞳の色が重なる。

「ヨル様が……ファイア様に呪いを……?」
「あのジジイは邪魔だ。ルアージュとの婚約にも反対してきたしな」
「そんな理由で……?」
「だいぶ前に軽く呪いをかけてやったが、今頃効いたか。あのジジイも衰えたな」

 ランナの拳が震えるのは怒りなのか悲しみなのか分からない。ただ気付けば片手を振り上げてヨルの頬を叩こうとしていた。
 しかし、そんなランナの衝動は読まれていた。振り下ろした手はヨルに届く前に逆に手首を掴まれて、そのまま強く体ごと背中から倒される。

「……あっ!?」
「甘いぞ、昼の女」

 馬車の座席で押し倒されてしまったランナだが、その瞳からは怒りに似た感情と共に涙が溢れてくる。悔しいのかもしれない。

「貴様も聖女なら気付け。あのジジイは生かしておいたら敵になる」
「敵を作ってるのはあなたでしょ!? もうやめて、人を呪わないで!!」

 ランナは両手首を掴まれて組み敷かれている状態で泣き叫ぶ。ヨルの感情は一切揺れ動かないのも悔しい。