朝昼夜の三重人格な陛下と、第三王妃の聖女な薬師

 なぜ今、このタイミングで……そう思いながらも、ランナの意識は深く長い熱と共に真っ黒に染められて働かない。
 目の前のベッドにはファイアがいる。その側にはルアージュも。それなのに熱いキスを止めてくれない。

(ルアージュ様の前で、ヨル様と……)

 ヨルがヒルのふりをしているとはいえ、バレたらどうなるのか。危機感と背徳感が同時にランナの心を襲い締めつける。
 それなのに抵抗や拒絶をするのは不自然だから動けない。ランナはヒルを最高に愛してると宣言したばかりなのだから。

(ヨル様、ずるい……)

 ヨルはランナが抵抗できない状況であると見抜いて、わざとやっている。ヨルとはそういう悪魔の男だ。
 人格が変わっても体はヒルと同じ。いつもヨルの口付けが心地よいと感じるのも当然だった。
 十分にランナの唇を味わったヨルが離れると、呆然と二人の口付けを見守っていたファイアとルアージュに向かって不敵に笑う。

「当然だ。ランナはオレの最強の聖女だからな」

 それはヨルとしての発言だが声質はヒルと同じ。声のトーンは微妙に違うが、フードをかぶっている彼はヒルにしか見えない。
 ファイアは二人のキスを目の前で見ても驚きもせずに微笑んだ。

「ふむ。素晴らしい愛だ。ヒル殿はヨル殿と違って実に愛情深い」
「……なんだと?」

 ヨルの声はさらに低くなり、こめかみに怒りの血管が浮き出たように見える。

「ヨル殿はさんざん娘を弄んだ男だ。ワシは決してヨル殿とは分かり合えん。あの女たらしに比べてヒル殿は……」

 次々とファイアから湧き出るヨルへの文句にランナが顔面蒼白になる。ヨル本人の前で言うなんて命知らずだ。

(あぁぁヨル様ってば、ファイア様にまで印象悪いじゃない!!)

 ランナはヨルの腕に抱きつくと強引に出口の方へと引っ張る。

「さぁ、帰るわよ、ヒルくん!」
「待て。あのジジイを殺……」
「はいはい!! 帰りましょうね、ダーリン!!」

 わざとらしく声を張り上げて、ランナはヨルの声をかき消した。