ベッドの上で身を起こしているファイアは、ようやくランナの後方にいるヒルの姿を見て声をかける。
「おぉ、ヒル・ヴァクト殿。すまんが、もう少し近くに来てくれ」
呪いが解けたファイアには笑顔が戻り、声にも張りがある。それでも、まだ急には立ち上がれないので、ヒルをベッドの近くに呼び寄せる。
しかしヒルの足が動かない。不思議に思ったランナがヒルの顔を見上げると、眉をしかめて赤い瞳を歪ませている。
「ヒルくん、どうしたの?」
その時、ランナは視界の端に映り込んだ壁掛け時計に気付いた。その針は今まさに午後5時を指し示そうとしている。
一気に血の気が引いたランナがヒルに目線を戻すと、ヒルの金色の髪の先端が黒く染まり始めている。
(どうしよう、ヨル様の人格に変わっちゃう!)
まだ自我が残っているヒルは、背中のフードを両手で掴むと頭にかぶせた。
「ランナ、ごめん。頼んだ」
ランナの耳元で囁くヒルの温かい瞳が、冷酷の瞳に変わる。フードをかぶっているので髪色の変化は目に見えない。
ヒルがフード付きの黒いローブを着ていた理由は、人格変化への対策だった。ヨルの黒髪は黒いフードで隠せば目立たない。
赤い瞳の色と顔立ちは、ヒルもヨルも同じ。髪さえ隠してしまえば見た目は変わらない。
しかし目の前のヴァクト陛下はヨルに変わりはない。夜の人格となった彼は、冷徹な瞳にまずランナを映す。
「昼の女。これはどういう状況……」
そう言いかけた時に、ランナが全力でヨルの胸を両手で押して部屋の隅まで移動させる。
ヨルの背中が壁に付いたところで、ランナは小声だが強い口調で言い聞かせる。
「ヨル様、お願い。少しだけヒルくんのふりをして」
「は? ふざけるな。なぜオレが……」
「ルアージュ様がいるの。また刺されたいの?」
ヨルは注意深く部屋の奥に視線を飛ばす。ベッドにはファイア国王、その前に寄り添うようにして座るルアージュの後ろ姿を確認した。
部屋の内装も色も自国の城とは違う。ヨルは瞬時にここがレッドリア国だと理解した。
ランナは壁際のヨルから離れると、急いでファイアのベッドの前に近寄る。
「ファイア様。用があるので私たちはこれで失礼します」
「そうか、遠い所からありがとう。この件については後日、改めて書状を送ろう。ルアージュ、馬車を用意してあげなさい」
「分かりましたわ」
書状とは感謝状の事だろう。全てが上手く行ったと思ったランナは、ほっと息をつく……が。
背後に禍々しい気配を感じてランナの全身に鳥肌が立った。振り向かなくても分かる。ヨルが背中のすぐ近くにいる。
(ヨル様、なんで来るの!? お願い、何もしゃべらないで!)
しゃべらなければヒルに見える。早くこの国から立ち去りたいランナは冷や汗も加わって目が泳いでしまう。
ファイアはランナの後ろのヨルに目を合わせて微笑む。完全にヒルだと思っている。
「ヒル殿。ランナ妃は素晴らしい聖女だ。良い妃をもらったな」
ヒルを褒めたつもりのファイアだが、ランナの背後のヨルはどんな顔をして聞いているのかが分からない。
そう思って硬直しているランナの両肩をヨルが後ろから掴んで、強制的に体の向きを変えられてしまった。
(えっ……?)
驚きを声に出す事もできずに、ランナの唇はヨルの熱い口付けによって塞がれた。
「おぉ、ヒル・ヴァクト殿。すまんが、もう少し近くに来てくれ」
呪いが解けたファイアには笑顔が戻り、声にも張りがある。それでも、まだ急には立ち上がれないので、ヒルをベッドの近くに呼び寄せる。
しかしヒルの足が動かない。不思議に思ったランナがヒルの顔を見上げると、眉をしかめて赤い瞳を歪ませている。
「ヒルくん、どうしたの?」
その時、ランナは視界の端に映り込んだ壁掛け時計に気付いた。その針は今まさに午後5時を指し示そうとしている。
一気に血の気が引いたランナがヒルに目線を戻すと、ヒルの金色の髪の先端が黒く染まり始めている。
(どうしよう、ヨル様の人格に変わっちゃう!)
まだ自我が残っているヒルは、背中のフードを両手で掴むと頭にかぶせた。
「ランナ、ごめん。頼んだ」
ランナの耳元で囁くヒルの温かい瞳が、冷酷の瞳に変わる。フードをかぶっているので髪色の変化は目に見えない。
ヒルがフード付きの黒いローブを着ていた理由は、人格変化への対策だった。ヨルの黒髪は黒いフードで隠せば目立たない。
赤い瞳の色と顔立ちは、ヒルもヨルも同じ。髪さえ隠してしまえば見た目は変わらない。
しかし目の前のヴァクト陛下はヨルに変わりはない。夜の人格となった彼は、冷徹な瞳にまずランナを映す。
「昼の女。これはどういう状況……」
そう言いかけた時に、ランナが全力でヨルの胸を両手で押して部屋の隅まで移動させる。
ヨルの背中が壁に付いたところで、ランナは小声だが強い口調で言い聞かせる。
「ヨル様、お願い。少しだけヒルくんのふりをして」
「は? ふざけるな。なぜオレが……」
「ルアージュ様がいるの。また刺されたいの?」
ヨルは注意深く部屋の奥に視線を飛ばす。ベッドにはファイア国王、その前に寄り添うようにして座るルアージュの後ろ姿を確認した。
部屋の内装も色も自国の城とは違う。ヨルは瞬時にここがレッドリア国だと理解した。
ランナは壁際のヨルから離れると、急いでファイアのベッドの前に近寄る。
「ファイア様。用があるので私たちはこれで失礼します」
「そうか、遠い所からありがとう。この件については後日、改めて書状を送ろう。ルアージュ、馬車を用意してあげなさい」
「分かりましたわ」
書状とは感謝状の事だろう。全てが上手く行ったと思ったランナは、ほっと息をつく……が。
背後に禍々しい気配を感じてランナの全身に鳥肌が立った。振り向かなくても分かる。ヨルが背中のすぐ近くにいる。
(ヨル様、なんで来るの!? お願い、何もしゃべらないで!)
しゃべらなければヒルに見える。早くこの国から立ち去りたいランナは冷や汗も加わって目が泳いでしまう。
ファイアはランナの後ろのヨルに目を合わせて微笑む。完全にヒルだと思っている。
「ヒル殿。ランナ妃は素晴らしい聖女だ。良い妃をもらったな」
ヒルを褒めたつもりのファイアだが、ランナの背後のヨルはどんな顔をして聞いているのかが分からない。
そう思って硬直しているランナの両肩をヨルが後ろから掴んで、強制的に体の向きを変えられてしまった。
(えっ……?)
驚きを声に出す事もできずに、ランナの唇はヨルの熱い口付けによって塞がれた。



