ランナは意を決して視線を隣のルアージュに移す。
「薬を調合します。米粉を用意できますか?」
「米粉……ですの? 厨房に確認を取ってみますわ」
ランナは魔法薬を調合するための素材として米粉を使う。これは幼き頃に見た母の調合の方法を受け継いでいる。
やがてメイドが病室に入ってきてルアージュに報告する。
「小麦粉はあるのですが、米粉はありませんでした。調達するのに少しお時間がかかります」
「そうですの……仕方ないですわね。ランナ様、ヒル様、少々お待ち頂いてもよろしいかしら?」
今から使いを出して街へ米粉を買いに行かせるので待ってほしいという。ランナはヒルに確認しようと思って振り返ると、なぜかヒルは必死に首を横に振っている。
ヒルが壁掛け時計を指差すので見てみると、今の時刻は午後4時半。ジョルノ国へ帰国するには馬車で片道1時間かかる。
ランナはようやく深刻な『制限時間』の事を思い出して一気に血の気が引く。
(午後5時になったらヨル様の人格に変わっちゃう!)
この際、帰りの馬車の中でヨルの人格になるのは仕方ない。それでも午後5時になる前に国境の門を出ないと大変な事になる。
ヨルの事なので、聖女だらけの国で聖女遊びでもされたら状況は悪化する。何よりも一番怖いのは、今この場にヨルが出てくる事だ。
(今、ルアージュ様とヨル様を会わせたら修羅場どころじゃない!)
実はヒルを装ったヨルだったと思われたら今までの話が嘘になってしまう。もはや戦争は免れない。
ランナはもう素材や手段を選んでいる場合ではなくなった。
「すみません、時間がないので小麦粉でいいです!」
「あら、そうですの? なんなら今日はヒル様とご一緒にお泊まりになっても構いませんのよ?」
「え!? お、お構いなく! 小麦粉で大丈夫ですから、小麦粉をください!」
ランナの必死の要望で、小麦粉で魔法薬を調合する流れになった。
僅か数分で、小麦粉が入ったガラスの小瓶がランナの手元に届けられる。ランナは小瓶を両手で包んで持つが、内心は不安だった。
(大丈夫よね、米粉も小麦粉も見た目は似てるし……)
呪いを解く薬を調合するのも初めての事で、成功するかどうかは分からない。
ファイアの命と、ルアージュの期待と、和平。背負うものの重さに呼吸が乱れて心臓が締めつけられる。
そんな時、急にランナの背中はふわっとした優しい温もりに包まれた。そして瓶を持つ両手の上に逞しい男性の両手が重なる。
振り向かなくても分かる。ヒルが後ろから抱きしめてきたと。
「大丈夫だ、ランナ。自信を持て。お前はオレの最強の聖女で最高の王妃だ」
「ヒルくん……」
耳元で囁かれるヒルの愛の呪文はランナの心にまで浸透して熱くさせる。不思議と今までにない内なる力が湧いてくる。
ヒルと力を合わせれば、どんな魔法薬でも調合できる気がする。そんな勇気と共にランナは精神を集中して目を閉じる。
……そう。聖女の能力は『愛』によって高まり、最大限の力が引き出されるのだから。
「薬を調合します。米粉を用意できますか?」
「米粉……ですの? 厨房に確認を取ってみますわ」
ランナは魔法薬を調合するための素材として米粉を使う。これは幼き頃に見た母の調合の方法を受け継いでいる。
やがてメイドが病室に入ってきてルアージュに報告する。
「小麦粉はあるのですが、米粉はありませんでした。調達するのに少しお時間がかかります」
「そうですの……仕方ないですわね。ランナ様、ヒル様、少々お待ち頂いてもよろしいかしら?」
今から使いを出して街へ米粉を買いに行かせるので待ってほしいという。ランナはヒルに確認しようと思って振り返ると、なぜかヒルは必死に首を横に振っている。
ヒルが壁掛け時計を指差すので見てみると、今の時刻は午後4時半。ジョルノ国へ帰国するには馬車で片道1時間かかる。
ランナはようやく深刻な『制限時間』の事を思い出して一気に血の気が引く。
(午後5時になったらヨル様の人格に変わっちゃう!)
この際、帰りの馬車の中でヨルの人格になるのは仕方ない。それでも午後5時になる前に国境の門を出ないと大変な事になる。
ヨルの事なので、聖女だらけの国で聖女遊びでもされたら状況は悪化する。何よりも一番怖いのは、今この場にヨルが出てくる事だ。
(今、ルアージュ様とヨル様を会わせたら修羅場どころじゃない!)
実はヒルを装ったヨルだったと思われたら今までの話が嘘になってしまう。もはや戦争は免れない。
ランナはもう素材や手段を選んでいる場合ではなくなった。
「すみません、時間がないので小麦粉でいいです!」
「あら、そうですの? なんなら今日はヒル様とご一緒にお泊まりになっても構いませんのよ?」
「え!? お、お構いなく! 小麦粉で大丈夫ですから、小麦粉をください!」
ランナの必死の要望で、小麦粉で魔法薬を調合する流れになった。
僅か数分で、小麦粉が入ったガラスの小瓶がランナの手元に届けられる。ランナは小瓶を両手で包んで持つが、内心は不安だった。
(大丈夫よね、米粉も小麦粉も見た目は似てるし……)
呪いを解く薬を調合するのも初めての事で、成功するかどうかは分からない。
ファイアの命と、ルアージュの期待と、和平。背負うものの重さに呼吸が乱れて心臓が締めつけられる。
そんな時、急にランナの背中はふわっとした優しい温もりに包まれた。そして瓶を持つ両手の上に逞しい男性の両手が重なる。
振り向かなくても分かる。ヒルが後ろから抱きしめてきたと。
「大丈夫だ、ランナ。自信を持て。お前はオレの最強の聖女で最高の王妃だ」
「ヒルくん……」
耳元で囁かれるヒルの愛の呪文はランナの心にまで浸透して熱くさせる。不思議と今までにない内なる力が湧いてくる。
ヒルと力を合わせれば、どんな魔法薬でも調合できる気がする。そんな勇気と共にランナは精神を集中して目を閉じる。
……そう。聖女の能力は『愛』によって高まり、最大限の力が引き出されるのだから。



