朝昼夜の三重人格な陛下と、第三王妃の聖女な薬師

 ルアージュが乗ってきた馬車にヒルとランナも乗せてもらって、王城に向かって出発する。
 レッドリアという国名、そして全身が真っ赤なルアージュ王女。赤のイメージが強かったが、王城も真っ白に塗られた聖なる神殿だった。
 二人が案内されたのは客間ではなく会議室。真っ白な長テーブルと椅子が数脚だけで飾り気がない。
 ヒルとランナが並んで座り、テーブルを挟んで向かい合う形でルアージュが着席する。他には誰もいない。

「さて、お話を始めますわ」
「ちょっと待て、お前と話すのか? オレはファイア陛下と話がしたい」

 ヒルの無礼もだが、ルアージュはヨルを刺した件に全く触れないのも恐ろしい。目撃者も証拠もないので暗殺者の仕業とでも言えば完全犯罪になる。
 この国での話し合いでは立場が圧倒的に不利なので逆に触れない方がいい。それはヒルもランナも分かっている。

「残念ですが、お父様は病に伏しておりますわ。近いうちにわたくしが王位を継ぐ事になりますわ」

 ルアージュの赤い瞳が憂いを帯びている事からも、国王の病状は深刻で治る見込みがないと見受けられる。
 王妃は何年も前に病死しており、現時点では国王ファイアの一人娘であるルアージュがレッドリア国の最高権力者。和平の交渉相手としてはやりにくい。
 予定と変わってしまったが、ヒルはすぐに頭を切り替えてルアージュとの交渉に臨む。

「まずは先日のヨルの無礼を許してほしい。すまなかった」
「まぁ。ヒル様に謝らせるなんて、ヨル様は国王と罪の自覚がありませんのね」

 ルアージュの目は笑っていない。ヒルが謝ったところで逆効果ではないかとランナは不安を感じ始めた。
 ここは一応は国王であるヒルの交渉術を信じて見守る。

「あいつは女遊びが激しいが、決してランナが浮気を持ちかけた訳じゃない。この通りオレたちは最高に愛し合っている。なぁ、ランナ!?」
「うぇっ!? そ、そうです! 私はヒルくんを最高に愛してます、決して浮気ではないです、はい!!」

 急に話を振られたランナは変なテンションでヒルへの愛を語ってしまった。ここはヒルに話を合わせるしかない。
 しかし、これはランナの潔白を示す言い訳であり、ヨルの印象をさらに悪くするだけであった。

「ヨル様が一方的にランナ様に迫っていたと言いたいのですわね? どちらにしても許せない男ですわ」

 ルアージュはヨルが既婚者である事を知らない。隠している訳ではないが、ヨルはポーラとの結婚を公表せずに式も挙げていないので周知されていない。
 だが、今それを言えばルアージュの怒りをさらに煽るだけ。ヒルは慎重に本題を切り出す。

「それと和平は話が別だ。ジョルノ国はレッドリア国と争うつもりはない。宣戦布告の発言は撤回してほしい」
「残念ですが、わたくしは平和主義のお父様とは違いますの。ジョルノ国を支配してヨル様を奴隷にして差し上げますわ」

 どこまで本気なのか、ルアージュは楽しそうに笑いながらヒルを試すかのような口ぶりで攻める。
 ここでランナが、ルアージュが言葉に含ませた本当の狙いと願望を読み取った。

「あの、じゃあ、国王様が回復して王位に復帰されれば戦争は回避できますか?」
「あら、鋭いですわね。お父様が復帰なされば、わたくしに王権はなくなりますから戦争は無理ですわね」

 つまり、和平の条件は国王ファイアの病の完治。それを聖女で薬師のランナに突きつけている。
 ルアージュがランナを憎まずに受け入れ始めたのは、ランナの能力に頼ろうと考えたからだ。

「ランナ様は最強の聖女でしたわよね。お父様の病を治して頂きたいのですわ」

 ルアージュはようやく本来の目的を自身の口で告げた。