朝昼夜の三重人格な陛下と、第三王妃の聖女な薬師

 すでにレッドリア国の敵とみなされているなら、捕らえられて殺されるか捕虜になるかのどちらかだ。
 武器を持たない上に、魔力の弱いヒルと聖力の弱いランナは戦う術がない。絶体絶命だと思っていた、その時。

「お待ちなさいませ!」

 以前にも聞いた声、そしてタイミング。騎兵の間をすり抜けるようにして二人の前に現れたのは、長い赤髪と赤いドレスの貴婦人。
 レッドリア国の王女・ルアージュは、ヒルの前でスカートの裾をつまんで持ち上げてお辞儀をする。王女らしい華麗なカーテシーだ。

「ヒル様、ランナ様。ご無礼をお許しくださいませ。陛下に代わってわたくし、王女ルアージュがお迎えに上がりましたわ」

 ルアージュは以前の激情が想像できないほどに淑やかな態度で接してくる。落ち着いてさえいれば普段は気品溢れる王女なのかもしれない。
 ヒルは一歩前に出ると腰に手を当てて堂々と立つ。何を対抗しているのか、こちらは国王らしく上から目線の偉そうな態度で。

「まったくだよ、随分と手荒なお出迎えだなぁ、ルアージュ?」

(あぁぁヒルくん、煽らないで!! その人、怒ったら怖いから、刺すから!)

 ヒルの後ろのランナは心の中で叫ぶ。ヒルもヨルもルアージュに挑発的で無礼というレベルではない。
 それでもルアージュは少しも淑やかな表情と態度を崩さない。本当に以前と同一人物なのだろうか。

「申し訳ありませんわ。国境の門に魔力の反応があった場合は出兵するように指示しておりますの」
「へ? 魔力? なんでだ?」

 こんな子供っぽい反応をするヒルだが、ルアージュと同い年の22歳である。

「レッドリアは聖域なので悪魔を侵入させないためですわ。でも今回の反応は何かの間違いですわね」

 ヒルはとぼけた顏をしているが、先祖が悪魔だというのは事実だと思われる。呪いが使える時点で悪魔だろう。
 悪魔の血を引くヒルの魔力に聖なる門が反応したとしか思えない。やはりヒルというかヴァクト陛下はレッドリア国と相性が悪い。