朝昼夜の三重人格な陛下と、第三王妃の聖女な薬師

 このタイミングで隣国のレッドリア国に行くのは危険極まりない。王女のルアージュが宣戦布告をしてきたばかりなのだ。

「ヒルくん正気? 敵国に行くなんて自殺行為だよ。国王のくせに本当にバカすぎるよ」
「すげー毒舌だな……それに、まだ敵国じゃない。戦争にはなってないんだ」

 ルアージュは王女だが女王ではない。国を動かす王権を持つ国王ではないので、宣戦布告は単なる挑発と見ていい。

「オレとランナがレッドリアの国王に会って掛け合う。和平外交ってやつだな」
「ヨル様じゃなくてヒルくんが行くの? なんで私まで!?」
「ヨルに外交は無理だろ。ランナはオレの花嫁だって証明するために相思溺愛っぷりを見せてやるんだ」

(ヒルくんにも外交は無理なんじゃ……)

 一体、ヒルはレッドリア国に何をしに行くのか。単にランナと遠出してノロケたいだけとしか思えない。
 ヨルの『ランナはオレの花嫁だ』の発言に嫉妬して対抗しているのは分かるので、そこは嬉しいと思う。

「あーあ。まったく、なんでオレがヨルの尻拭いしに行くんだよ。本当に迷惑な奴だな、さっさと殺してぇ!」
「……ヒルくんも毒舌だよ」

 ヒルの毒舌も殺意も子供の悪戯っぽさが強くて全く迫力がない。どんな顔をして言ってるのかと思えば、なぜか楽しそうな笑顔。

「まぁ、ついでにレッドリアを観光でもして楽しもうぜ。ランナの両親の故郷だろ、情報収集も兼ねてさ」

 ランナはハッとしてヒルの顔を見返す。彼の提案には、ランナに対するさり気ない気遣いも含まれていた。
 ランナはヴァクト陛下の三人格の謎を解き明かしたい。そしてヒルはランナの両親の死の真相を一緒に解き明かしてくれる。
 お互いが、お互いのために協力する姿勢。ランナはヒルと正式に結婚して、初めて夫婦という関係の心強さと温かさを感じた。

「ヒルくん、ありがとう」

 ランナは隣のヒルの肩に頭を乗せて寄り添う。体だけでなく胸も熱くなる不思議な感覚が心地よくて、もう少しだけ彼の体温に触れていたいと思った。