朝昼夜の三重人格な陛下と、第三王妃の聖女な薬師

 それからヒルの部屋へと戻ったランナだが、昼になるまで部屋の外には出る気にならない。
 7時を過ぎると執事のデイズが朝食を部屋に運んできてくれたが、それ以外に部屋を訪れる者はいなかった。
 その後の記憶はない。早起きだったせいもあり、ソファの上で寝そべっていたら眠ってしまっていた。

(……あれ? なんか息苦しい……)

 目を覚ましたランナが瞼を開くと案の定。ヒルの熱い唇が重なっていて口呼吸を妨げていた。以前と全く同じ光景だ。
 仰向けのランナは右手を振り上げたが、手の平が届く前にヒルが離れて射程距離の外に逃れた。今回のビンタは当たらなかった。

「だーかーら。昼寝はベッドでしろって言ってるだろ、ハニー」
「ヒルくんの先祖の悪魔ってキス魔なの? ダーリン」

 悪戯っ子のように笑うヒルのノリにつられて皮肉を返してしまった。
 重なり合う形の二人が同時に上半身を起こすと、ランナの体はヒルの胸に抱きしめられる形になる。

「あぁ、ランナ。やっと会えたな。昨日は、あの後どうだった? ヨルに何もされてないか?」
「昨日……」

 ヒルは強く熱い抱擁をしながらランナの金髪を撫でたり頬をすり寄せてきたりする。ここまでストレートな溺愛をされると逆に照れがない。
 しかしランナは昨日を思い出して涙を浮かべる。

「ヨル様が私の両親を殺したとか言うしぃ……呪いで指輪が黒くなるしぃ……ヨル様が刺されるしぃ……隣国と戦争になるしぃ……」
「え!? なんか半べそで色々すげー事言ってるけど、それ全部本当なのか!? 刺されたのか、オレ!?」

 この様子だとヒルは自分が刺された事すら気付いていない。申し訳なさすぎてランナの涙と独白は止まらない。

「ポーラ姉さんは私を叩くし、アサ様とモニカ様は私を誘うし……私は最強の聖女らしいし……」
「ちょっと待て! 一度話を整理しよう、な!? とりあえず深呼吸しろ!」

 こういう時には年上の大人らしく対応するヒルが頼もしい。抱擁を解いてソファに並んで座り直すと、ヒルはランナの肩を優しく抱いて無言で待つ。
 ランナの涙と呼吸が落ち着いてから、改めて昨日からの出来事を全てヒルに伝えた。

「なるほど……ランナの両親の件はオレにも分からない。ヨルが嘘を言っている可能性もあるしな」
「ねぇ、私たちは、どうしたらいいのかな……」

 ヒルは正面を向いて腕を組むと眉間にシワを寄せて真剣に考えている。ヨルの同じポーズと比べると、ヒルは全く威厳がない。

「順に結論だけ言うぞ。ヨルの呪いは解けた。刺された傷は治った。だから次に取り組むべき最優先事項は隣国の件だな」
「ルアージュ様、かなり怒ってたし……戦争、止められるかな」

 ヒルは腕を解くと、横を向いてランナの両肩の上に両手を置く。そして顔を近付けて真剣な眼差しで言い聞かせる。

「ランナ。オレと一緒にレッドリア国に行こう」

 唐突なヒルの提案に、ランナは目を見開いて金色の満月のように丸くした。