朝昼夜の三重人格な陛下と、第三王妃の聖女な薬師

 その叫びに応えるかのように、この場に現れた誰かの凛とした声が響き渡る。

「おやめなさいませ!」

 祭壇の壇下に立つ者が張り上げた声がヨルの動きを止めた。その隙にランナはヨルの腕の拘束から逃れる。

(誰が来たの? カレンさん?)

 聞こえてきたのは女性の声だが、カレンよりも高く通る声だった。ランナは身を起こして階段の下の人物を確認する。
 そこに立つのは、目が覚めるような真っ赤なドレスの貴族女性。隣国の王女・ルアージュだ。

「このような神聖な場所で情事とは、まったく恥知らずですわね」

 ルアージュはドレスのスカートの裾を持ち上げると、赤いハイヒールの足音をコツコツと鳴らして階段を上っていく。
 ヨルは祭壇に背を向けると腕を組んで正面からルアージュを待ち構える。

「ルアージュか。久しぶりだな」
「えぇ、お久しぶりですわ。ヨル・ヴァクト様」

 階段を上り終えてヨルの前に堂々と立つルアージュの声色も表情も穏やかではない。どう見てもケンカ腰だ。
 修羅場になりそうな雰囲気を感じたランナは祭壇の端へと移動して距離を取る。
 それでなくてもヒルとの結婚式の直後にヨルと絡んでいたところを見られたのは大問題だ。どう弁明すれば良いものなのか。

「わたくしを捨てておいて、今はどうしているのかと思えば、ヒル様のお妃様に手を出すとは見損ないましたわ」
「ふん。貴様とは終わった。どうとでも思うがいい」

(うわぁ、やっぱり恋愛のもつれ話だぁ……)

 外野で気配を消したつもりのランナはハラハラしながら成り行きを傍観する。
 しかしウェディングドレスで気配は消せない。真っ赤な憎悪を燃やすルアージュの視線はランナにも向けられる。

「ランナ様は聖女なのでしょう? わたくしも聖女の血を引いておりますのよ。ヨル様は聖女に見境がないのですわ」

 急に話を振られても返答に困る。ただ返事をするならば『その通りですね』としか言えない。ヨルには聖女で正妻のポーラがいるのだから。
 何も言えないランナに代わって、ヨルが悪魔の微笑みを浮かべながらルアージュの怒りを煽る。

「ランナは最強の聖女だ。貴様は聖力が弱い役立たずだと分かったから婚約破棄した。それだけだ」

(え、どれだけよ!? それに私が最強の聖女って何!? 初耳なんだけど!)

 もはやヨルの最悪な発言にツッコミきれない。むしろランナは聖女と呼べないほどに聖力が弱い。