朝昼夜の三重人格な陛下と、第三王妃の聖女な薬師

 ヴァクトは視線をそらして何かを考えた。その時の彼の赤い瞳は暗い闇を纏っていたが、すぐにランナに向かって明るく微笑む。

「なるほどね、分かった。金目の物なら持ってるし。じゃあ診察してよ」

 こんなに元気で顔色がいいのに、どこが不調なのか。それでもランナは薬師として対応をしなければならない。

「……今日は、どうされたのですか」
「うーんと、あ、そう! ちょっと風邪気味でさ、咳と鼻水が出て。風邪薬が欲しいな」

 明らかに今、適当に考えた症状だろう。鼻声でもないし咳なんて一度もしていなかった。嘘だとも言えないので、ランナはそれを真面目に受け止めるしかない。

「分かりました。では診察します」

 ランナはテーブルの上に置かれたヴァクトの両手を握る。両手で握手をしているような状態だ。ヴァクトは驚いて赤い瞳を見開いて丸くしている。

「へっ? なに、ランナちゃん、オレに惚れた?」
「ちがう、生気を読み取ってるの」
「聖気? オレは聖者じゃないぞ」
「生命力の事よ。その人の生気に合わせた薬を調合するの」

 生気は一人一人、色も強さも違う。ランナは聖女の能力で生気を読み取って、患者の心身に効果的な薬を調合できる。
 ランナは目を閉じて、ヴァクトの手の平から伝うようにして彼の心臓、心の奥へと意識を入り込ませて生気の状態を確認する。

(え、なに……この色?)

 ランナの脳裏に映ったのは、今までに見た事のない生気の色。複数の色が混ざっていて何色とも呼べない。
 朝日のように眩しい白の中に、昼間の太陽のような金色が差し込み、夜の闇のような漆黒も渦巻いている。
 それらの色は馴染む事がなくマーブル状に絡み合い、ランナの意識の中で禍々しい渦となって迫り来る。
 身の危険を感じたランナは目を開けると、両手の握手を解いて素早く手を引っ込める。その手は小刻みに震えている。

「あなたの生気、普通じゃない。人間? 何者なの?」
「失礼だなぁ、オレは王都から来た普通の人間だって。なぁ、早く薬をくれよ」
「……風邪薬でいいのね?」
「いいよ」

 ヴァクトが何者かは知らないが、深く関わらない方がいい。そう思ったランナは感情を抑えて立ち上がると、背後の木製の棚から小さなガラス瓶を取り出して持つ。