朝昼夜の三重人格な陛下と、第三王妃の聖女な薬師

 それでもヒルの瞳は真っ直ぐランナの同色の瞳を捉えていて身動きが取れない。物理的ではない拘束力、これがヒルの本当の魔力かもしれない。

「オレって幼い頃は病弱だったのか、よく親父に病院に連れて行かれたんだ」

 いや、どう見ても病弱ではないだろうとランナは脳内でツッコミを入れる。それはヒルの生気を見ているから分かるし、バカなヒルは風邪も引かない。
 当時のクロノスは息子の三重人格を治す方法を模索していた。そして二人の人格を殺して一人を残すという考えに至ってしまった。

「それでさ、どこか田舎の病院に行った時、そこの先生の娘がすごく可愛い子でさ」
「ちょっと待って、それっていつの話?」
「オレが6歳だったかな? その子は3つくらい年下だったな」

 意外とヒルの初恋は早い。最近の恋の話をされたら嫉妬するところだが、幼少期なら許せてしまう。
 思い返してみれば、ランナの初恋と言えば3歳くらいの頃。患者として家に来た年上の男の子を思い浮かべる。

「ヒルくんの初恋の相手って、幼女なの?」
「なんだよ、その目は! 引くなよ! 一度しか会ってないし名前も覚えてないけど!」

 ランナは、ようやく分かってきた。あの頃にヒルと出会ったのも、何もかもが運命であった事に。
 出会いも結婚も結婚式も何もかもが突然だと思っていたけれど、ヒルはちゃんと自分で自分の初恋を叶えていた。
 そしてランナの初恋も叶えてくれていた。それがヒルにとっては全て無自覚だったとしても。

「一度だけなのに顔は覚えてる。可愛かったんだよ。オレと同じ金髪で……」

 しかしランナには記憶違いがあった。ヒルは昔、ランナの家である診療所に何度も来ていたと思っていたが、一度だけだった。
 何度も会っていたかのように記憶してしまうほどに印象深かった男の子。それは紛れもなくランナの初恋の相手だった。

「それ、私よ」
「そう、ランナみたいな金髪……で……」

 二人の金色の瞳の焦点が合うと同時に見開かれる。ヒルはやっと、遠い昔の初恋の相手がランナだという事に気付いた。
 このタイミングでヒルが初恋を思い出したのも、いつも無意識にランナと初恋の幼女を重ねて見ていたからだった。

「ランナ……だったのか?」
「うん。私の初恋の相手もヒルくんだよ」

 悪魔でも人間でもヒルはバカで純情で不器用。だけど、いつもランナの心を照らす陽気な太陽。
 先の見えなかった暗闇の中で、ヒルという光が導いてくれた場所。それは呪いなんかより、ずっと素敵な魔力だと思える。

「はは……最高だ、ランナ。ありがとう、愛してる」
「ヒルくん、ありがとう……愛してるよ」

 もう時間制限はない。時計に気を取られたりもしない。長い夜の時間、二人は全てを脱ぎ捨てて唇も身体も重ね合う。