毒を持つ娘と、毒を食う獣魔王 ~偽りの愛と復讐劇~

 ハンカチを巻き終えるとセンティは立ち上がり、見下ろしていたリィラは彼を見上げる形に変わる。

「王子様は早くこの里から出た方がいい。毒の花の花粉を吸い続けるのは危険……」
「ねぇ、リィラちゃんって何歳? 僕は20歳だよ」
「……18だけど」

 センティはまるでリィラの忠告を聞いていないようで、自身や毒の事よりもリィラに興味を示している。
 不思議な人だなとリィラは思うが、嫌悪感はない。外部の人間と話す機会もなく、里で孤独に生きてきたリィラも彼に興味が湧いてきた。

「王子様、ちょっとここで待ってて。絶対に動かないで」

 リィラは小走りで花畑に挟まれた小道を真っ直ぐに進んで、その先にある木造の小屋の中に入った。
 そこがリィラが暮らす家であるが、簡素な外観で物置小屋にしか見えない。

 小屋から出てきたリィラは、手に小さな巾着袋を持っている。再びセンティの前まで歩み寄ると、それを差し出した。

「……これ、お守り。持っていれば魔物は近寄らないから」
「これ、ポプリ? いい香りがするね」

 その巾着袋に手で触れるとカサカサとした感触と音がする。ドライフラワーが入っているのだろう。

「袋は絶対に開けないで。毒の花びらだから」
「分かったよ、ありがとう」

 センティが包帯代わりにくれた『白いハンカチ』のお礼として、リィラはお守り代わりに『毒花のポプリ』を贈った。
 センティはポプリをマントの内側に入れるとゴソゴソと動かす。巾着の紐を腰のベルトに結んでポプリを腰から下げた。

「じゃあ、僕は行くね」
「……帰りも一人で大丈夫なの?」
「大丈夫だよ。お守りがあるし。またリィラちゃんに会いにくるからね」
「……え?」

 リィラが驚いて言葉を返す前に、センティは最後に清々しい笑顔だけを残して森の方へと走り去ってしまった。

(また、来る……?)

 呆然とセンティの背中を見つめていたリィラは、その言葉の意味と不思議な感覚に戸惑う。

 アディール王国はポワゾンから一番近くにある国だから大した距離はない。
 それでも、毒に覆われたポワゾンには人も魔物も近寄らないのに、なぜあの王子様は近付こうとするのだろうか。

 ふと、センティが右足に巻いてくれたハンカチに視線を落とす。
 真っ白なハンカチには紫の血が滲んでいたが、もう痛みは感じなかった。