毒を持つ娘と、毒を食う獣魔王 ~偽りの愛と復讐劇~

 あれから何時間の時が過ぎたのか分からない。

 地面に伏せて気を失っていたリィラは、ゆっくりと起き上がって地面に座る。
 周囲の森は普段通りの静寂に包まれている。辺りを見回してみるが、魔物もセンティもいない。
 しかし、地面に残された血痕だけが惨劇の事実を痛感させて瞬時に目を伏せた。

(センティ……私の……せいで……)

 リィラに怪我はない。毒性のある自分だけが魔物に捕食されなかったのは当然の事だった。

 次々と溢れ出す紫色の涙が頬を伝い地に落ちると、血の赤に染まった土の地面に新たな色彩を染み込ませていく。

 自分がセンティと出会わなければ、彼はこんな危険な場所まで足を運ぶ事はなかった。毒花のポプリがあれば安全だと思い込んでいた。

(ごめんなさい、センティ……)

 リィラが絶望を感じたのは罪悪感だけではない。リィラはセンティを愛していたのだと自覚した。

 もう、どこにも行きたくない。このまま、ここで命が尽きてしまえばいい。センティが果てた、この場所で一緒に土に還ろう。
 そう思って、リィラは再び地に伏せて瞼を閉じた。

 意識を手放してから、どのくらいの時間が経ったのだろうか。
 リィラは誰かに抱き上げられて意識を現実に戻した。

(……誰?)

 薄く目を開いて自分を抱き上げた者の顔を確認する。夕刻の薄暗さのせいでよく見えないが、あの時の魔物のように赤い瞳の男性。

「王国の者だ。王の命により、あなたを連行する」

 それだけ言うと男性は目も合わせずに、リィラを抱いたまま森の中を歩き出した。
 男性は簡易的な銀の鎧を身に纏っているので王国の騎士団の者だろう。リィラに素手で触れる行為は危険なのに、彼は全く恐れる様子はない。

(私……処刑されるんだ……)

 それは当然だと思った。自分はアディール王国の王子を死に至らしめた罪人なのだから、極刑は間違いない。
 こんな形で王国へ行く事になるなんて皮肉な運命だと思った。