因縁の魔王陛下と聖女令嬢~溺愛の呪いが解けない~

 眠りに落ちたエリーゼは再び前世の頃の夢を見た。
 今回のシーンは、聖国の女王エリーゼが魔国の魔王アゼルに『溺愛の呪い』をかけられて結婚した後のこと。

 どこかの国の城下町の道の真ん中にエリーゼとアゼルが並んで立っている。
 周囲は民家を焼き払う炎の焦げ臭さと、兵士どうしが斬り合う剣の音と血の匂いが混ざり合っている。
 そして逃げ惑う人々の足音と叫び声。見回さなくても聴覚と嗅覚でここは戦場だと認識できる。

 そんな中だというのに、エリーゼはアゼルの腕に抱きつくようにして寄り添っている。
 そんな二人の前には20歳ほどの若い青年が剣を構えて立っている。銀色の髪にプラチナの澄んだ瞳で、白いマントと白の貴族服。そのカラーはアゼルと正反対。アゼルが漆黒の魔王なら、彼は純白の勇者のような出で立ちであった。

「エリーゼ……愛していたのに! 魔王に寝返ったのか……!」

 青年が何を言おうとエリーゼに声は届かない。エリーゼの呪われた瞳は愛するアゼルしか映さない。代わりに答えたのはエリーゼの肩を抱いている魔王アゼル。

「カイン王子よ、残念だったな。エリーゼもウィリアム国もオレのものだ」
「そうはいかない! 僕はエリーゼも国も取り戻す!!」

 カインはアゼルの正面に向かって駆け出すと銀色の長剣を振り上げる。
 全く動こうとしないアゼルだが、彼の腕に抱きついているエリーゼの体から聖なる光が溢れ出て二人を包んでいく。
 この時、ようやくエリーゼが目の前に迫るカインと目を合わせた。その碧眼にカインのプラチナの瞳を映すが、そこに感情はない。
 カインが思わず足を止めると、アゼルが勝ち誇ったように笑いを浮かべてエリーゼに口付ける。ようやく長いキスが終わると、エリーゼは再び感情のない冷たい瞳をカインに向けて口を開く。

「カイン様、諦めて。私はもうアゼルの妃なの」
「エリーゼ……どうしてなんだよ!? どうして魔王なんかに!」

 そうしている間にも、アゼルとエリーゼの全身を包む聖なる光は強さを増していく。これは聖女の能力の一つ『強化』。アゼルの魔力と戦闘能力を一時的に強化する。
 エリーゼが必要以上にアゼルに密着しているのは単にイチャついているだけではない。アゼルはエリーゼに触れる事で常に最強でいられる。
 立ちすくむカインの目の前で、余裕のアゼルはわざとらしくエリーゼとの愛やノロケをカインに見せつける。

「可愛いな、オレのエリーゼ。もっと言ってやれ。オレを愛しているとな」
「……べ、べつに……愛してなんか……」
「ほぉ。なら、もう抱いてやらんぞ」
「……! 愛してる、わよ……」

 エリーゼはアゼルを溺愛しているが基本的にはツンデレである。口ごもりながらも愛してると言うエリーゼのツンデレが可愛すぎて、アゼルは戦場でも悶えてしまう。
 そんなイチャつきの中で、アゼルはエリーゼの能力で自身が最大まで強化されるのを待っている。
 そして時が熟すとアゼルは腰に下げていた鞘から長剣を引き抜く。その剣は漆黒の色の暗黒剣で、カインが持つシルバーの剣とはやはりカラーが正反対であった。

「さらばだ、カイン王子」

 聖なる力の加護によるアゼルの高速の剣捌きが、カインの体を一刀両断した……その瞬間。
 血飛沫を見る事もなくエリーゼの視界が暗転して暗闇に包まれる。かと思うと、次には眩しい光が世界を明るく照らしていく。