因縁の魔王陛下と聖女令嬢~溺愛の呪いが解けない~

 食事中だというのに、エリーゼは勢いよく立ち上がってしまった。そして両手を突いて前のめりになる。

「あんた本気!? だって平和協定を結ぶという条件で私は……!」
「エリーゼを虐待した家など国ごと潰す」

(こいつ……本気でヤバい!!)

 転生しても魔王は魔王。アゼルは理屈ではなく愛と感情で動く男であった。どの道、アゼルは前世と同じように世界征服に乗り出すだろう。

「まぁ落ち着け、エリーゼ。オレを愛してるなら座れ」
「あ、あんたなんか愛してないけど座るわよ……!」

 ちゃっかり誘導するアゼルと、ツンデレ全開のエリーゼであった。とにかく、この男を暴走させてはまずいと思って話題を変える。

「えっと……あんたは完全に前世の記憶があるのよね?」
「あぁ。しかし記憶だけだ。残念な事に転生した今のオレは魔力を持たないただの人間だ」
「へぇ……」

 それは今世で聖女の能力を持たないエリーゼも同じであった。そう考えるとアゼルもエリーゼと同じで、能力が覚醒していないだけの可能性もある。
 しかし魔力を持たなくても、アゼルは最強の軍事力を持つデヴィール国の王。武力で世界征服は可能だから恐ろしい事に変わりはない。

「実は、私も……」
「ん? なんだ?」
「……いえ、なんでもない」

 エリーゼは言いかけた言葉を飲み込んで心を悟られないようにする。今の自分には聖女の能力がないと知られてしまえば、平和協定も政略結婚も無意味になる。
 それよりも聖女の能力が目当てであるアゼルに捨てられる事の方が怖かった。溺愛の呪いは強気なエリーゼを臆病にさせる。
 アゼルはワイングラスを片手に持つとエリーゼの前に掲げてみせる。そのグラスの中ではアゼルの瞳と同じ色の赤ワインが揺れている。

「オレとエリーゼの運命の再会、そして結婚を祝して乾杯だ」
「祝う気分じゃないんだけど」

 そう言いながらもエリーゼはワイングラスを手に持つ。そして二人のグラスがカチンと音を立てて触れ合う。
 そうしてエリーゼは赤ワインを口に含むが、大した量を飲んでいないのに喉が熱くなってきた。次第にそれは胸の熱さとなり、意識までもが熱に浮かされて朦朧としてくる。

(しまった……何か……変な薬を盛られた……?)

 油断した事を薄れていく意識の中で悔やむが、もう遅い。エリーゼはテーブルに突っ伏して完全に意識を手放してしまった。