因縁の魔王陛下と聖女令嬢~溺愛の呪いが解けない~

 エリーゼは戦争と溺愛ルートを同時に回避する方法を考えた。それにはウィリアム国のカイン王子の協力が必要だと考えて、会いに行く口実が必要だった。

「私に任せてほしいの。私がカイン王子を落として服従させてみせる」

 エリーゼは聖女ではなく女王様だったのか……いや、前世では紛れもなく女王であったが。
 その大胆な発言にアゼルは目を丸くするが、アーサーは相変わらず無表情で発言を続ける。

「なるほど。エリーゼ様がハニートラップを仕掛けるという訳ですか」
「おい、待て。色仕掛けで懐柔するのか? そんな事は許さんぞ」

 エリーゼを溺愛するアゼルの反対は当然だった。しかしエリーゼもアゼルの扱い方が分かってきている。
 わざとらしくアゼルの胸に抱きついて甘えると、瞳を潤ませて上目遣いになる。ついでにアゼルの逞しい胸の周りを指先で撫で回す。次第にアゼルは興奮して鼻息が荒くなる。

「私、愛するアゼルの力になりたいの。お願い、任せてほしいの」
「ふぉぉ……素直なエリーゼも最高だな……しかし勝算はあるのか?」
「私には聖女の力があるから、溺愛の呪いをかければ簡単よ」

 これは嘘で、今のエリーゼに聖女の力はない。そもそも聖女は呪いなんて扱わない。
 しかし、こうもデレデレになっているアゼルを見ると、エリーゼのハニートラップは効果抜群かもしれない。色仕掛けで懐柔されているのはアゼルも同じであった。
 エリーゼがカインに近付き溺愛の呪いをかけて、デヴィール国に対し絶対服従の国交条約を結ばせる。これでウィリアム国はアゼルが支配したも同然となる。……これが、エリーゼの口実としての作戦である。

「しかしエリーゼを一人で行かせる訳にはいかんからな、オレも行くぞ」
「それはダメ。アゼルが行ったら宣戦布告だと思われちゃう。私なら顔を知られてないから好都合よ」

 確かに悪名高いアゼルが行くと、それだけで警戒されてしまう。それは軍隊長アーサーでも同じだろう。エリーゼはつい昨日、アゼルの妃になったばかりなので他国に顔は知られていない。
 しかしエリーゼの裏の目的はアゼルから逃れるための逃避行なので、どうしても一人で行きたい。考えた末にアゼルは承諾した。

「いいだろう。だがウィリアム国の手前までは一緒に行く。護衛の軍隊も少し同行させるからな」
「……分かった、それでいいわ」

 どの道、ウィリアム国までは遠いので馬車で連れて行ってもらう必要がある。
 現状、ウィリアム国とは敵対していないので、エリーゼが一人で王城を訪問しても問題ないと思われる。
 ウィリアム国の王城には事前にアゼルの名で書簡を送り、デヴィール国の王妃エリーゼが挨拶に行くという名目で通知する事になった。