聖女の力のない令嬢の織った布に、冷徹公爵は恋をした。


 リディアは目を瞬いた。

 あの布だ、とすぐにわかった。去年の秋、ひとりで半月かけて織り上げた、薄く透けるような銀灰色の絹布。
 聖女の光はないが、糸の撚り方と織り方を工夫して、光を受けると波紋のように模様が浮かぶように仕上げた一枚。家の者には「聖女の布に並べるものではない」と言われたが、王宮の展示には出品を許されていた。


「力がなくても、あなたは糸で何かを表現できる」


 アルシェはリディアを見たまま、静かに言った。


「それを直接確かめたかった」

 リディアはしばらく、言葉が出なかった。

 欠落を見て招いたのではなく、欠落の中に見つけたものを見て招いた。そういうことか、とリディアは思った。

 音楽が続く。二人はフロアを回る。

 リディアの指先に、何も宿らない。聖なる光も、神秘の糸も。

 ただ、白い手袋越しに伝わる温度だけが、確かにそこにあった。

 ――糸が、結ばれるような気がした。

 聖なる力のない、ただの指先に。