聖女の力のない令嬢の織った布に、冷徹公爵は恋をした。


 そして社交界が落ち着いたのは、リディアはアルシェと夜会に出たことだった。

 そこで一番驚かれたのは、アルシェ自身の変化だった。

 夜会に出れば相変わらず無口で無愛想だったが以前との違いが一つあった。
 リディアのそばにいるとき、その目が柔らかかった。誰もアルシェの目が柔らかくなるところを見たことがなかったので、最初は気のせいかと思われた。だが何度見ても同じだった。

 噂はデマだったとすぐに皆理解したのだ。

 挨拶巡りをしていると、アルシェの旧友だという男爵がリディアに言った。


「リディア嬢、あなたは一体何をしたんですか? あいつがあんな顔をするのを、私は二十年来見たことがない」

「何もしていません」


 リディアは答えた。


「ただ、隣にいるだけです」


 男爵は目を丸くして、それから大笑いした。


「それが一番難しいんですよ、あいつの場合はね。私はアカデミーから一緒ですが、知る限り、口角が上がってるのを見たことないのです」

「そう、なんですか?」

「はい。今後もアルシェのことをよろしくお願いします。次に会うのは結婚式だと思うので楽しみにしておりますね」