聖女の力のない令嬢の織った布に、冷徹公爵は恋をした。





「……ありがとうございます」


 声が、わずかに震えた。

 アルシェは立ち止まった。リディアも止まった。

 彼はゆっくりとリディアを振り返った。その目が、廊下の薄明かりの中でリディアを見た。何かを言いかけて、やめた。また言いかけて、やめた。

 やがてアルシェは、無言のままリディアの頭に手を置いた。

 大きな手だった。重くて、温かくて、ただそこに置かれているだけの手だった。撫でるわけでもなく、何か言うわけでもなく、ただ置かれた。

 リディアは目を瞬いた。

 それからゆっくりと、目を伏せた。

 温かかった。工房で触れた手と同じ温度が、今度は頭の上にあった。

 廊下に、二人分の沈黙が満ちた。