そのとき、声が聞こえた。
二つ席を隔てたところに座る、ヴェリア公爵家の令嬢、クローデットの声だった。
クローデットは十九歳で、社交界では美貌と毒舌で知られていた。聖女の力を持つ令嬢たちの中で、常に中心にいる人物だ。
「ねえ、聞いた? ネティヤ公爵がユーリホキラスの令嬢を工房に招いているんですって」
声は抑えられていたが、周囲に聞こえるように計算された音量だった。
「まあ、どうして」
「さあ。何かの気まぐれじゃないかしら」
クローデットは扇を開いた。
「ユーリホキラス家の令嬢といっても、あの方は聖女の力がないでしょう。力のない娘をわざわざ招くなんて、公爵閣下も物好きよね」
周囲の笑い声が、小さく波紋を広げた。
リディアは紅茶の杯を持ったまま、静かにしていた。怒りは湧いていた。だがそれより先に、慣れた感覚が体を覆った。これは知っている。十歳の頃から知っている感覚だ。
エレナがリディアの袖をそっと引いた。心配そうな顔をしていた。
「リディア様……」
「大丈夫です」
リディアは小さく言った。
だが声は続いた。



