聖女の力のない令嬢の織った布に、冷徹公爵は恋をした。




 窓の光にかざした瞬間、リディアの息が止まった。

 浮かんだ。

 薄く、かすかに、だが確かに。光の角度によって波紋のような文様が、布の表面に揺れた。百年前の布の切れ端に宿っていたものと、同じ輝きが。


「出た」


 声が震えた。リディアは自分でも驚くほど手が震えていた。

 アルシェが隣から手を伸ばし、布を一緒に光にかざした。その手がリディアの手に、ほんの少し触れた。

 温かい、と思った。夜会の夜、手袋越しに感じた温度と同じだった。


「……出たな」


 アルシェの声は低く、静かだった。だが普段より少しだけ、何かが違った。

 リディアは横を見上げた。アルシェは布を見ていた。その横顔に、うっすらと、本当にうっすらと、柔らかいものが浮かんでいた。

 笑顔、と呼ぶには足りないかもしれない。だが確かに、何かがほぐれていた。