聖女の力のない令嬢の織った布に、冷徹公爵は恋をした。





「縦糸と横糸の交差点の間隔が、元の布より広い」

「……どうしてわかるのですか」


 リディアは思わず訊いた。


「閣下は糸紡ぎの専門ではないでしょう」

「土を見慣れていると、密度の違いがわかるようになる」


 意外な答えだった。土と布では全く別の話に思えたが、アルシェは説明するでもなく布を作業台に置いた。


「もう一度、密度を上げてやってみろ」


 リディアは素直に頷いて、糸を取り出した。

 黙々と作業しながら、リディアはアルシェがまだ隣に立っていることに気づいた。自分の研究に戻るでもなく、かといって特に話しかけるでもなく、ただリディアの手元を静かに見ていた。

 見られていると思うと、指先が少し緊張した。


「……閣下」

「何だ」

「見られていると、やりにくいのですが」


 少し間があった。


「そうか」


 だがアルシェは動かなかった。

 リディアは横目で見上げた。アルシェは真顔だった。悪びれた様子は微塵もない。


「……意地悪ですね」

「そうか……?」

「そうです」


 また少し間があった。


「慣れろ」