聖女の力のない令嬢の織った布に、冷徹公爵は恋をした。





 それから、リディアはネティヤ邸に通うようになった。

 最初は五日に一度。次第に三日に一度、そして気づけば一日おきになっていた。母は何も言わなかった。むしろ嬉しそうに送り出した。その理由をリディアは考えないようにしていた。

 工房での時間は、不思議と居心地がよかった。

 アルシェは口数が少なく、余計なことを言わない。リディアが作業に集中していれば黙って自分の研究をしているし、リディアが何か訊けば簡潔に答える。社交の場のような気の遣い合いも、家の中のような重苦しさもなかった。ただ、それぞれが自分のすべきことをしている、静かな時間。

 リディアは百年前の布の切れ端を手がかりに、失われた技法の復元を試みていた。

 簡単ではなかった。

 糸の撚り方は何度試してもうまくいかなかった。光の角度で文様が浮かぶためには、糸の密度と撚りの方向が絶妙に噛み合わなければならない。一度織り上げるのに二日かかり、出来上がったものを光にかざして確認し、また解いて最初からやり直す。その繰り返しだった。