それだけ。
その二文字が、リディアの中に落ちた。石が水面に落ちて波紋を広げるように、静かに、しかし確かに広がっていった。
あれば便利だが、それだけだ。聖女の力を持つことが全てではないと、この人はそう思っている。
三大公爵家の当主が。豊穣の聖女の血を引く家の当主が……
「わかりました」
リディアは布の切れ端をもう一度手に取った。
「興味があります。やってみます」
アルシェの目が、わずかに細くなった。夜会の夜と同じように。だが今度は、その奥に揺れるものがなんなのか、リディアには少しだけわかった気がした。
安堵だ、と思った。
リディアの胸の奥で、警戒と好奇心と、もう一つ名前のつけられない何かが、ゆっくりと混ざり合い始めていた。



